最終章2

 6月11日午後1時15分、目的地へグラーフは何とか妨害を振り切ってフィギュア専門店へと到着する。一方で、周囲は花見客が警察へ引き渡されたかのような状態になっており、今まで倒されたであろうモブの皆様はご丁寧にいなくなっていた。

「グラーフか。お前は知り過ぎたのだ――超有名アイドル商法と言う物自体を黒歴史にしただけでは、この戦いは永遠に終わらない」

「超有名アイドル自体をなかった事にしなければ――コンテンツ流通に未来はない! あのようなチートがビジネスとして成立するというシステムを破壊しなくては!」

 突如として目の前にいたサバゲ装備の人物――シャドウは語り始める。

「あなたは一体、何をしようと――!?」

 彼の装備は既に弾薬が尽きており、補給の為にも時間稼ぎが必要な状態にあった。しかし、その中で使えそうな装備がひとつだけあったのである。グラーフも、シャドウの判明しているパラメータを確認済であり、見た目としてはグラーフが有利と言えるのかもしれない。

「それに答えているような時間は残されていない! 今は――!」

 次の瞬間、彼はチャフグレネードをグラーフに向けて放り投げる。投擲距離としては50メートル位か。

「これは――まさか!?」

 グラーフが防御態勢を取った時には、すでに遅く――グレネードが爆発した後だった。



 チャフグレネードが爆発し、グラーフのバイザーにノイズが発生、周囲を確認出来なくなってしまう。その隙をついて、シャドウは逃走をしたのである。ノイズが消えた頃にはシャドウの姿は目の前から消えていた。

「遅かっ――まだ、手遅れじゃない!」

 グラーフが動けない状態の中、新たなバックパック、SFアニメの様なバイザーメット、白銀の右腕――どうやら、島風(しまかぜ)あいかも本来の目的地に間に合ったらしい。しかも、バックパックのブースターは時速40キロは余裕で出せる程のクラスであり――ここまで来るとどちらがチートなのかが分からなくなる。

 敢えて言うなれば、パワーインフレと言うべきか。島風は逃走したシャドウを追跡――何としても彼を追い詰めようと考える。どうやら、島風にも彼の正体は分かったらしい。ただし、彼女の場合は何となくであり、他の人物のようにピンポイントで分かった訳ではないが。



 グラーフは一度、アーマーの装備を解除し、フィギュア専門店に入る。入口の自動ドアも開く為、臨時休業にした訳ではないようだ。店舗の広さは2階建て、1階はフィギュアと言うよりは幼児向けの人形や海外作品のフィギュア、輸入品等を取り扱っている。

 洪水が起きてしまうと商品が被害を受ける為、排水対策が入口の外や駐車場エリアにも完備している。非常時には避難エリアにも出来るように、イベントスペースが広いのも特徴だ。

 イベントスペースではワゴンの中に積まれた特売品セールが行われている。主に放送が終了に近い番組のフィギュア、1シーズン過ぎた特撮作品の変身セット等が積まれているのだが――そちらにグラーフは興味を示さない。転売屋であれば、こうした商品を大量に確保してオークションサイトへ出す所だが――草加市には悪質な転売屋を摘発出来る条例があると言う噂が、こうした動きを抑制している。実際に条例があるかどうかは草加市役所にでも行って確かめないといけないが、そうしているような時間はないだろう。

「エクスシアは一階においてあるような形跡はないようだが――」

 グラーフはワゴン内のフィギュアの品定めではなく、エクスシアの捜索を行う。似た名称のフィギュアは発見出来たが、名前が似ているだけで別物だった。



 5分後、グラーフは2階へはエスカレータ経由で向かう。2階には戦艦や航空機のプラモ、アニメ作品のプラモ、フィギュア、それ以外にも幼児向けのゲーム筺体なども置かれている。

「ここにも置かれている――」

 最初にグラーフが立ち寄った場所、それは戦艦のプラモが置かれているコーナーだった。【加賀】、【赤城】、【ビスマルク】、【山城】、【扶桑】、【日向】、【伊勢】等が並んでいる近くにグラーフのプラモを発見する。

 しかし、こちらを見つけるのが彼の目的と言う訳ではない。別の場所にあったレジへと向かい、そこにいる男性店員に事情を説明――エクスシアの在庫があるのか聞いた。

「これの事でしょうか?」

 事情説明から3分後、エクスシアのフィギュアを男性店員が持ってきた。しかも、在庫の方はまだあるとの事だ。

「こちらのバージョンを探しているのですか、ご存じありませんか?」

 グラーフはタブレット端末に保存していた画像を男性店員に見せ、更に事情を説明した。ここまで来ると、フィギュアハンターの事も隠し通せるとは思えないので、そちらに関しても説明する。

「そちらのバージョンは、当店では扱っていませんね。既に生産終了しているバージョンですので、在庫限りと言う事で別の棚に置いていましたが――」

 結論としては、既に品切れと言う事らしい。だとしたら、何故シャドウが姿を見せたのか? 彼が既にフィギュアを手に入れていたとしたら、ターゲットに関する情報更新が行われてもおかしくないし、交戦情報等も更新されるはずだ。

 システムの盲点を突くと言うのはフィギュアハンターでも至難の業とネットでは書かれていたはずだが――? 店を出たグラーフは色々な部分で疑問を抱きつつも、シャドウを追いかける為の情報を探す事にした。そして、アーマーを装着した矢先――。

【気を付けろ。一部エリアに特殊なレーザーを発射するドローンが配置されている】

 グラーフがバイザーのシステムを立ち上げた所、ショートメッセージが飛び込んできた。何と、周囲にドローンが配備されたというのだ。このドローンはARゲームのシステムで生み出された物であり、物理破壊は不可能と言う事らしい。対抗するにはARウェポンと言うARゲームでの武器で攻撃する必要性が出てくるのだが――。

「もしかすると――」

 グラーフはバックパックの飛行甲板から戦闘機を展開し、ドローンをターゲットにする。次の瞬間には、戦闘機から放たれたミサイルがドローンを撃破して無効化したのだ。

「今回のフィギュアハンターがARゲームだったという事は、これで実証された事になるのか」

 一つの謎は解けた。あとは、シャドウが何を目的にしてこのような茶番を始めたのか――それを確かめるだけだ。

 そして、グラーフはドローンの配備されているエリアを辿って行く事にする。おそらく、あの配備は他に追跡する者が現れないようする為の配置トラップの可能性が高いと考えていた。

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