最終章
語られる衝撃の事実
6月11日午後1時、グレーのコート、サバゲに使う様なシューズ、右目に眼帯型のスコープと言う人物がフィギュア専門店に姿を表した。この人物が何者なのかは不明だが、既に先着していたフィギュアハンターがかませ犬のようになぎ倒されている以上――ただ者ではないのは分かる。
「あの人物、何処かで見覚えが――」
フィギュアハンターとは無関係の軍師を思わせる衣装の男性は、彼の顔を見たと同時に何かを思い出そうとしていた。
「貴様が――全てを混乱させた張本人か!」
彼と交戦している人物の一人が、アサルトライフルを彼に向けて発射するが――弾丸がコートを貫通する事はない。それとは別の人物もロケットランチャーやグレネード、更には戦術兵器を投入するが、それらも彼の前には無力だ。
原因としては、彼の装備しているコートに秘密があるようだが、頭に血が上っているようなハンターには何を言っても無駄だろう。
「分かったぞ! 彼の正体が――」
軍師が何かを知らせようとタブレット端末を展開しようとした時にはジャミングが発生し、それを伝える事は出来なかった。しかし、この光景をステルス迷彩を展開して目撃していた別の人物は、彼の正体を拡散する事に成功する。
午後1時5分、フィギュア専門店へ向かうとしていたフル装備状態のグラーフだったが、それを別の超有名アイドル投資家が妨害していた。その為、本来であれば午後1時には到着していてもおかしくはない状況が、想定外の足止めを食らう事になる。
一方で謎の人物が無双状態になっている状況に巻き込まれていない事が、唯一の幸運なのかもしれない。あるいは、不幸中の幸いか。
『聞こえるか? フィギュアハンターの諸君――』
グラーフの耳に聞こえたのは男性の声だが、イケメン系にも聞こえる。しかし、これがボイスチェンジャーによる物と言うのは気づかれていない。
『この通信は、情報の重要性を考慮して一方通行という形をとっている――』
この声は他のフィギュアハンターにも同じように送られているが、唯一通信が流れていないのはフィギュア専門店に姿を見せた襲撃者だけ。
『私の名は無名――では、さすがに信用はしてもらえないだろう。しかし、これと言った名前も浮かばないので無名で通させていただく』
本来であれば、ウォーターゲート事件でも有名なあの名前を使うつもりだった。しかし、それでは向こうに気付かれる可能性もあり、無名で通す事にする。
『今回の事件の黒幕、それはフィギュアハンターを私的に悪用してのケースではない。それはまとめサイトやマスコミが視聴率や閲覧数を稼ぐ為の工作だ』
『――過去に起こったフィギュアハンターを巡る事件、そこで大量に転売屋が摘発され、そこから新たなコンテンツ流通を考えようと言う機運が盛り上がったのは知っているだろう』
『しかし、それでも100%摘発出来た訳ではなかった。そこで、黒幕の人物は100%の完全摘発をする為、フィギュアハンターを利用しようとした』
『過去にも似たようなケースで、毒を以て毒を制すやり方でコンテンツ流通を歪める超有名アイドル商法を根絶しようとした事も――アカシックレコードには記されている』
『その一方で、今回の黒幕は別の方法を考えた。フィギュアハンターのシステムを移植し、そのフィールド内で転売屋勢力等を釣り上げようとしたのだ』
『ここまで言えば、何となくだが事情を呑み込めた人物もいるだろう。そのフィールドとして使用されたのが、草加市内で町おこしとして運用されている――ARゲームだ』
一方的な通信ではあるものの、その内容に耳を傾けるハンターたちは衝撃を受けている人物ばかりだった。実際、グラーフもこの人物の発言に耳を傾け、言葉に出来ないような表情をしているからだ。ただし、その表情はバイザーで隠れていて確認できないが。
『そして、コンテンツ流通を変える為にARゲームその物を利用しようとした人物がいる。ARゲーム自体、ビジネス分野で利用されるのは問題視されないが――』
『彼が行おうとしていたのは、それこそマッチポンプと言われる物だ――一歩間違えれば、私物化を考えているタダ乗り便乗や軍事転用を考えている国家と同じだろう』
マッチポンプと言う単語を聞き、衝撃を受けるハンターもいる。しかし、フィギュアハンターの私物化をタダ乗り便乗勢力のように利用するのも言語道断の話だ。
『それだけの事を考えているのは、過去にフィギュアハンターとして活躍をしていた人物。今はシャドウと言う名前を使っていると言えば分かるか?』
シャドウ、それはアイドル投資家や他の勢力が高値で転売できるフィギュアの情報を提供する人物として――ネット上でも有名になっていた人物だ。そのシャドウこそが、今回の事件を陰で操っていたと語っているのである。
同刻、フィギュア専門店に襲撃していた人物はシャドウだった。軍師風の人物は、それに気付いたようだが――。
「このタイミングでエクスシアを奪われる事は――」
周囲に倒れているハンターたちを見降ろし、ある種の達成感を感じていた。しかし、これでは満足いく結果ではない。ハンターに紛れた転売屋は通報済みであり、あと数分もすれば逮捕されるだろう。彼が懸念しているのは、エクスシアに隠されたある存在だ。
「あのパッケージを見て、もしかして――と考えていた。しかし、それは調べれば調べるほど現実味を帯びた」
シャドウが調べていたのはアカシックレコード、そこにはエクスシアに隠されている能力、技術等も詳細に解説が載っている。
「あのエクスシアの能力を現実に運用できれば、今度こそ超有名アイドル商法をなかった事に出来る! それこそ、本当の意味でのコンテンツ流通における平和だ!」
この叫びが聞こえているかは不明だが、この様子を中継しているドローンがあり、その方角に向かってシャドウはチャフグレネードを投げつけた。チャフが爆発し、チップと思わしき物が散布されたと思われた次の瞬間、ドローンは墜落したのである。
「違法なドローンと思っていたが、ARゲームで使われるダミーターゲットか」
ドローンの正体はARサバゲやシューティング系で使われるターゲット――つまり、拡張現実で作られたドローンだった。その為、墜落しても爆発はしない事に加え、破片が散乱する事もない。おまけに、今の様子は中継されてもいなかったのである。
ドローンを放った人物は、何とARサバゲのランカーだった。その目的は、シャドウの動向を見る為であるのだが――。
「軍師の男はあっさりと倒されたようだが、我々は凡ミスなどしない」
しかし、この人物達もあっさりとシャドウに発見されてしまう。その一方で、超有名アイドル商法には無関係という事で見逃されもした。
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