第19話

眠りに就いた彼女がいる。

虚ろな目がぼんやりと中空を向いている。

それを前にして昂るたかぶる心臓は紛れもない実物だ。

けれど僕は驚くほどに穏やかな心持でいた。


欲望を抑圧することなく、ただただ認めることで、僕の身体は僕の意のままに動くようになっていた。

僕は彼女をこれからも自由意思によって汚すだろう。だから強引にぶちまける必要などないのだと、僕の野生は理性によって諭されている。


僕は試みに、彼女に触れてみることにした。


胸の奥で甘く疼く予感があった。

急かすように血流を速める心臓を今では愛おしいとさえ思う。


指先がゆっくりと彼女に近づいていく。

彼女は拒むことなどできないと知っているから、不安も恐怖もなかった。

彼女のどこに触れるも僕の想いのままだ。

彼女はそれを感知さえできない。

そう思えば確かな高揚があった。

脳髄を駆け巡る妄想にだらしなく頬は歪んでいく。

よだれさえ垂らしそうになって慌てて拭った。

焦点のぼやけた目だとしても、彼女に見られていると思えばなんだか恥ずかしい。


指先が震える。

あまりにも彼女は近かった。

彼女の体温さえこの指先に感じる。

まるで僕の指を拒むような熱。

僕はそれを、迷いなくかき分けて進んでいく。


―――そして僕の指先は彼女に触れた。


ひどくあっさりと、僕自身の肉で、純潔なる彼女を汚した。

欲望に呑まれず、むしろ飼いならしたうえで、己の意志のままに。


その事実が僕を高みへと誘った。

まるで自分が神にでもなったかのような全能感があった。

だが、まだまだこんなものは序の口に過ぎない。

もっと大胆なことだって今の僕には何らためらいなくできてしまう。

指先で触れるなんてそんなささやかなことで満足する必要はないのだ。


僕は、ああ、なんということだろう。

僕はさらに、彼女を、指先でつまみあげたのだ。


自分が恐ろしくなる。

こんな若い身空でこのような背徳に浸るなどあまりにも冒涜的過ぎる。

だが私はこういう生き物になってしまったのだ。

奇しくも妹の優しさは僕をこんな怪物へと作り変えてしまった。


だから妹には感謝している。朝ごはんの卵焼きをふたつも譲渡してしまうほどに。


そんなことは、目の前にある極上の御馳走と比べればひどく些細なことだ。

にもかかわらず無邪気に喜ぶ彼女の笑みはあまりにも無知だった。

僕がこんな下卑た行いをしていることなど考えもせず、僕を慕っている。

そうとも、妹はなにも知ることはない。

これからも永遠に。

僕にはその力がある。


僕は笑みを浮かべ、上機嫌のままに指を離した。


制服の裾が彼女の肌に吸い寄せられて戻っていく。

指先に残る私の家とは違う柔軟剤のほのかな香りをそっと舌で触れた。

僕がこの手で直接手にしてしまった彼女の味はどこまでも甘美だった。


次の日にはきっと、もっと恐ろしいことをしていることだろう。

そう思えば歪む頬の引きつるような感覚も、今はどこまでも、心地よかった。

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