第77話 禁じられた遊びゲーム
『それではルールを説明いたしましょぉ。
皆様、お手元のカードをご覧ください』
クラリッサの言葉とともに、プレーヤーたちの手元に封筒が配られる。
中には3枚のカード。桂木はそれぞれカードの絵柄に視線を落とした。
『“禁じられた遊びゲーム”は3枚のカードを使って行います。
カードはそれぞれ
プレーヤーはピリオドの前に3枚のうちの1枚を投票します。
そして投票したカードが、プレーヤーのステータスとなります』
説明を聞きながら、桂木は部屋の隅に視線を送った。
“投票ルーム“。そう書かれたプレートの貼られた部屋が目に入った。
『投票を行う場所は右手側の扉より通じる部屋。そこでカードを一枚だけ入れることで、そのピリオドのステータスが決定します。
投票ルームには同時に1人までしか入ることができません。また2分を超えての滞在もできませんのでご注意ください。
そして全員が投票を終えたら、各ステータスにそれぞれ何名のプレーヤーが投票したのかがモニターに表示されます。そうしたらいよいよゲーム開始です。
プレーヤーの皆様は手元に残った2枚のカードを用いて、他のプレーヤーと“戯れ”を行います』
モニターに3種類の絵柄が表示される
聖杯を手にした騎士。十字架を手にした骸骨。剣を手にした悪魔。絵柄は壁画のものと同じだ。
『“戯れ”は指名した相手と一緒に対戦ルームへと入り、カード1枚を提示しながら“勝負”と宣言することで成立します。
聖杯を手にした“生者のカード”は、ステータスが“死者のプレーヤー”に勝つことができます。
十字架を手にした“死者のカード”は、ステータスが“悪魔のプレーヤー”に勝つことができます。
剣を手にした“悪魔のカード”は、ステータスが“生者のプレーヤー”に勝つことができます。
逆に、出したカードが相手のステータスよりも劣っていた場合は、挑まれた側の勝利となります』
クラリッサの説明を受けながら、桂木は説明の要点を頭に浮かべた。
——手元には3枚のカードがある。
まずそのうちの1枚を投票する。
投票を終えると、自分は投票したカードのステータスとなる。
例えば“
そして5人が投票を終えると、モニターにステータスの内訳が示される。
なお誰がどのステータスかはわからない。
そして今度は“戯れ”のフェーズを迎える。
誰か1名を対戦ルームへ誘い、そこで“戯れ”が行われる。
“戯れ”は挑んだ側がカードを提示し、“勝負”を宣言することで成立する。
力関係はこう。
生者のカードは死者のステータスに勝つ。死者は悪魔に勝つ。悪魔は生者に勝つ。
例えば相手のステータスが“悪魔”だと思うなら、“死者“を出せば勝利。
しかし“死者“のカードを出して、相手のステータスが“生者“だと負け。
要は投票したカードを読み合いということか……?
カードの絵柄に落としていた視線を、桂木は再びクラリッサへと戻した。
「このゲームでは、戯れごとにチップの増減が計算され、ゲーム終了時にまとめて精算されます。
“戯れ”に勝利した場合、挑戦者が勝てばチップ30枚を獲得。挑まれた側はチップ30枚を失います。
一方で、挑まれた側が勝った場合は、チップ20枚を獲得。負けた挑戦者はマイナス20枚です。
ドローの場合はチップの増減はありません。
“戯れ”は各ピリオドで一回だけ申請することができます。申請されたプレーヤーは断ることができません。両者とも、1分以内に対戦ルームへと入室してください。
申請は自由ですが、一度も戯れをせずにピリオドを終えることはできません。
挑む側でも、挑まれる側でもいいので、必ず一度は“戯れ”に参加するのがルールです。
なお対戦ルームには、ディーラーを除き、対戦を申請したプレーヤーとされたプレーヤーの2名しか入室できません。
これを1ピリオド30分で行います。ピリオドの終了と同時に投票したカードが返却され、次の投票が開始されます。
それを計5ピリオド行い、最も獲得チップの多かったプレーヤーが勝者となります』
全員が固唾を呑んでクラリッサの説明に聞き入った。
生者は死者に勝つ。死者は悪魔に勝つ。悪魔は生者に勝つ。それ以外はドロー。
一見、じゃんけんのようなシステムに見える。だがこのゲームには投票という制度があり、投票したカードは戯れで使うことができない。
投票の時点で決まるステータスの優劣。この時点で、戯れで負けることのない相手・絶対に勝つことのできない相手が確定するのだ。
自分と相性の悪いプレーヤーには決して戯れを求めてはならない。だから禁じられた遊びゲーム
プレーヤーたちは意識せずとも、このゲームを名づけた者の意図を汲んでいた。
『最後にゲームを行う上での注意点。
一つは反則についてです。同じプレーヤーのカードは、1ピリオドに1枚しか投票することができません。
もし同じプレーヤーのカードが2枚投入された場合は、ステータスは確定されず、投票フェイズ終了直後にカードの持ち主は失格となります。
もちろんカードが投票されなかった場合も失格です。
要は、ステータスが決定しなかったプレーヤーは失格になるのだと心得てください。
またカードを失ってゲームが続行できなくなった場合、すでに定員に達しているルームに入室した場合、1ピリオド中に一度の戯れも行わなかった場合なども反則と見做され、失格となります。
失格の場合は無条件で最下位が確定してしまいます。くれぐれもご注意ください。
なお』
そう言うと、クラリッサは部屋の一角に用意されたバーカウンターを指した。
『今回のゲームは投票フェイズが20分間に、戯れのフェイズが60分間。つまり1ピリオド80分。
そしてそれを5ピリオド繰り返すため非常に長丁場の戦いとなります。
バーや休憩席、手洗い等は用意しておりますのでご自由にお使いください。
さて、何か質問はございますか』
説明の切れ目で、真っ先に手を挙げたのは武藤だった。
「“戯れ”の最中にチップが底をついた場合はどうなんの?」
『チップの清算はゲーム終了と同時に行われます。よって第1ピリオドでチップが底をついてしまった場合も、その後のピリオドで挽回することが可能です』
「ふーん。ならこのゲームはチップがマイナスで終わることもあるわけか」
『その通り。しかしその分、勝者はプレーヤーたちの持つチップの総額を上回る賞金(じゅみょう)すら得るチャンスがあるのだということです。
いかがかですか。ファイナルに相応しい特典でしょぉ?』
クラリッサの言葉に俺を含む何人かが改めて眉をひそめた。おそらく他のプレーヤーも引っかかっていたのだろう。
何度も繰り返される“ファイナル”というフレーズに。
「どういうことだ」
口にしたのはエリート商社マン風の男だった。
「この世界から脱出できる条件はチップ100枚を得るか、すべてのチップを失って死んだ場合の二択。そのルールに変更はないだろう?」
『えぇ、鳴海様。間違いございません』
「ではなぜ最後だと言える」
鳴海の質問はプレーヤーたちの疑問を代弁していた。このゲームから抜けるには、チップ100枚を得るか、チップをすべて失って死ぬかの二つに一つ。
だったら勝つにしろ負けるにしろ、チップの数が1~99枚でゲームを終えたプレーヤーにとって、この戦いが最後ということにはならないはずだ。
——まさか。
桂木の脳裏に一抹の不安が過ぎる。
クラリッサの口元から笑みがこぼれたのはその刹那だった。
『いいえ、鳴海様。このゲームが“ファイナル”であるとの言葉に誤りはございません。
なぜならこの“禁じられたゲーム”で賭けるチップは100枚』
100?
凍りついたような空気に、誰かの呟きが漏れたのを聞いた。
『聡明な皆様にはもうお分かりですね。
ゲームで増減するチップの他に、勝者は100枚のチップを得る。
敗者は100枚のチップを失う。
このゲームの勝者は魔界の脱出が確定し、敗者はその時点で脱落が確定するのです』
プレーヤー5人の表情が変わった。皆、理解したようだった。
賭けるチップが100枚……それは即ち、このゲームでの敗北が命の終わりであるということを。
勝者は最もポイントの高いプレーヤーのみ。それ以外は寿命100年を失って脱落。
……っ!
今までのゲームとは次元の違うシビアさに戸惑いの声が漏れる。しかしクラリッサは場が静まるのを待つことなく、薄い笑顔を浮かべて進行を続けた。
『さぁ、はじめましょぉ。皆様の運命を分かつ最後の戯れを』
言葉とともにモニターへ明かりが点る。
1st Period 投票フェイズ 残り20分
桂木千歳 (カツラギチトセ) 0枚
武藤一真 (ムトウカズマ) 0枚
鳴海要 (ナルミカナメ) 0枚
此処条未夢 (ココジョウミユ) 0枚
アリス (アリス) 0枚
プレーヤーの名前とそれぞれのスコアが大きく映った。そしてディーラー、クラリッサが高らかに声を上げた。
『“禁じられた遊びゲーム”
ゲームスタートです』
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