第57話 仮説

 第9ゲーム。

 つじ御代みしろの対戦は、打ち合わせどおりつじの勝利に終わった。


 もちろん桂木は勝者を当て、1ポイントを減らした。


 チーム内の勝負は全て出来レースなのだ。外すことはあり得ない。


 しかしチームに属していないプレーヤーも、50%の確率でポイントを減らすことは出来る。


 この対戦ではミシロ・タテハ・霧継きりつぐの3名が予想を当てていた。


 吉田のポイントだけが“22pt”のままモニターに表示されている。


霧継きりつぐチーム:霧継きりつぐ・タテハ・吉田・ミシロ

 桂木チーム:桂木・御代みしろつじ


 現在の勢力はおそらくこう)


 確認のために、メモへ名前と暫定ポイントを桂木が書き込む。


 成績上位から順に

 

 1位:つじ霧継きりつぐ(15pt)

 3位:桂木・タテハ(16pt)

 5位:ミシロ(17pt)

 6位:御代みしろ(21pt)

 7位:吉田(22pt)


 双方が上位と下位のメンバーをチームに含み、現状はおおよそ五分。


 しかしメンバーが1人少ないという点から、徐々にではあるが、賭けの際に差をついていくことが予想される。


「どう考えても不利だな。

 だが……」


 まだ不確定要素はある。


 霧継きりつぐチームは現在最下位の吉田と、チップなどどうでもいい立場である死神の2名……タテハとミシロをメンバーに抱えているのだ。


 対して桂木チームは今まで組んできた人間3人。


 結束に関して霧継きりつぐチームに劣っているとは思えないし、思いたくなかった。


「結束力の差……。

 そこに付け入る隙は必ずあるはずだ」


 桂木は改めて全員のスコアを見た。


 そこになにか。

 なにか自分の見落としている要素があるような気がしてならなかったのだ。





 

『それでは第10ゲームを開始いたします。


 それではオーナー(指名者)の御代みしろ様。

 チャレンジャーの桂木様。


 会場へお越しください』


「行こうか」


 コールを受け、ソファを立ち上がる桂木。


 御代みしろは立ち止まり、じっと桂木を見据えた。


「—なんだよ、まじまじと見て」


「いえ。なんでもありません」


 御代みしろはもはや見慣れた、柔らかな笑顔を浮かべた。


「なんだか表情がよくなって安心しました」


 ……。かなわないな。


 桂木は頬をかきながら、ふっと表情を緩めた。


 二人並んでホールに向かうエレベーターを降りる。


 対戦の結果は、打ち合わせ通り御代みしろの勝利。

 一気に5ポイントを減らす。


 そうし続く第11・12ゲーム。


 第11ゲーム。

 霧継きりつぐ対吉田は、吉田の勝利。

 第12ゲーム。

 お礼にといわんばかりに、吉田が霧継きりつぐに勝たせる。


 2ゲームで両プレーヤーがそれぞれ5ポイントを減らした。


 ここで全21ゲームのうち半分が終了。


 皆が同じ作戦を取っているのもあり、賭け以外での差は詰まらない。


 しかしそこで、桂木の脳裏にある違和感がよぎった。


 それはスコアボードに記されたミシロの成績にあった。


「第2ピリオド開始時に19ptだった奴のスコア……。

 現在、14pt?」

 

 5ゲームでミシロが減らしたポイントは5ポイント。

 一度も“対戦“の場に姿を見せていないにも関わらず。


 つまりこの第二ピリオド。

 ミシロは桂木チームの対戦も含めて、賭けを全て当てたということになる。


「確率的にありえないことではないが……妙に運がいいな。

 いや、問題はそんなことよりも」


 そう。問題はこっちだ。


 第8ゲーム:タテハ対霧継

 第9ゲーム:つじ対御代

 第10ゲーム:御代みしろ対桂木

 第11ゲーム:霧継きりつぐ対吉田

 第12ゲーム:吉田対霧継


 相手チームも含めて、誰もミシロを対戦相手に指名しない。


「予想ばかりがパーフェクト。

 しかし本人は一度も対戦に姿を見せない」


 まさかこれって……。


 桂木は湿った手のひらを拭い、視線を移した。


 その先にはカードを指先で弄りながら、部屋のモニターを見据えるつじの姿があった。

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