第50話 揺らぎ
「……まずいな」
第4ゲーム。霧継vsタテハの勝負が決着。
結果は霧継の勝利。ここまではいい。
問題はこの1ゲームで、霧継は一気に5ポイントものスコアを縮めたことだ。
これで霧継のスコアは最低でも残り20。
俺のスコアは現在23。(霧継が勝つ予想は当てた)
共に1勝0敗。同じ戦績だというのに、現時点で3ポイントもの差をつけられてしまった。
手を打たなければあっという間にリードを広げられてしまうだろう。
桂木は落ち着きなく机を指で叩いた。次は吉田が相手を指名する第5ゲーム。桂木に指名権が回るのは第6ゲーム。
一刻も早く追随したい桂木にとって、この順番制がもどかしく感じた。
『それでは第5ゲームに移ります。指名権を持つプレーヤー、吉田様は対戦相手を指定してください』
ルピスからコールがなされて数秒。モニターにプレーヤー2名の名前が表示される。
吉田、A。ミシロ、B。
吉田は対戦相手にミシロ(悪魔)を選んだようだ。
どちらが勝つと予想すべきか。
桂木はふたつのボタンを見比べた。
Aのボタンは、吉田の勝利を見込む証。Bはミシロの勝利を見込む証だ。
吉田の力量はある程度わかっている。
彼が、一人で悪魔との駆け引きを制することが果たしてできるか……。
桂木の手は無意識にBのボタンへ伸びていた。
しかし触れる直前。桂木は意識的にその手を止めた。
頭をよぎったのだ。第3ゲームのトラップルームで、吉田の口にした言葉が。
『俺はみんなを信じる。だから頼むよ。
仲間として、一緒に戦ってくれないか』
まっすぐな目でそう言った吉田の姿が。
どうしようもなく、脳裏にこびりついて離れなかったのだ。
「信じる……。仲間として戦う、か」
呟きが終わったとき。桂木が手にしていたのはAの紅いボタンだった。
こういう読み合いのゲームに、吉田は不向きだとわかっていたにもかかわらず。
桂木は合理的な考えを排して、吉田の勝利に賭けていた。
『各プレーヤーの札が出揃いました。それでは、オープン』
モニターに映された両者の札。
吉田の選択は2で、ミシロの選択は1。
勝者はミシロで決着。
桂木の賭けははずれ、ポイントを減らすことはできなかった。
——感情にまかせて乗り切れるゲームじゃない。そんなことはわかっていたはずだ。
大写しになった吉田の背中に視線が釘付けられる。
見ていて少しだけ、自分がわからなくなった。
勝たなきゃ何にもならない。そんなことはわかっていたはずだ。
なのに俺は……。
抑え込むように、桂木は胸を押さえた。
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