第47話 零ゲーム

 

 

 今までにない触れ込みに、プレーヤーたちからざわめきが起きる。


 そんな俺たちを尻目に、ディーラーのルピスは淡々と続けた。


『とはいっても、ゲーム名だけでは何のイメージも湧きませんね。

 さっそくゲームのルールと、その勝利条件をお教えしましょう。

 正面のディスプレイをご覧ください』


 ルピスの言葉を合図に、モニターの画面に5枚のカードが映った。


 見た目はトランプと同じ。スペードの1から5までのカードが横に並んでいる。


『勝負の仕方はいたって単純。


 手札は1・2・3・4・5の五種類。2名のプレーヤーが同時にカードを出し、出した数字の優劣を競います。


 勝敗は、より数字のカードを出したプレーヤーの勝ち。

 例えば3のカードなら相手が4か5の場合に勝ち、2なら3・4・5の数字に勝つことができます。


 ただし1つだけ例外がございます。


 1のカードを出し、相手が5のカードを出した場合は、1を出した側の負けとなります。


 ゲームはこの“対戦”を繰り返してゆきます。

 対戦の制限時間は5分。5分以内に相手のカードを予想し、プレーヤーはカードを伏せてテーブルにおいてください』

 

 ゲームの概要はきわめて単純だった。相手の出す数字を予想し、それを下回りそうな数字のカードを出すだけのゲーム。何も難しいことはない。


 最後に例外と付け加えたが、それも聞いてみれば当然の内容だ。そのルールがないと、1は無敵のカード。5は必ず負けるカードになってしまう。


 ただ……そうなると1つの疑問が残った。それは4と3のカードの存在意義だ。


 だって5は1に勝てるから使い道があるものの、4と3は負ける可能性が高いだけでほとんど利用価値がない。


 だったら最初から3枚だけのカードでやればいいではないか?

 

 そんなことを考えていたが、そこはさすがに4回戦で行われるゲーム。きっちりとルールに戦略の余地が組み込まれていた。


『大きい数字のカードで勝てば、それだけ自分のポイントを多く減らすことができるのです』


「ぽ、ポイントを減らす? どういうことですか」


『このゲームは、自分の手持ちポイントを早く減らしたプレーヤーが最終的な勝者となるのです』


 御代みしろの質問に応じる形で画面が切り替わる。


 モニターには、2と3と4のカードが映し出された。


『例えばプレーヤーAが2を、プレーヤーBが4を出したとしましょう。

 この場合、勝ったプレーヤーAは自分の手持ちポイントを2ポイント減らすことができます。


 ですがもしプレーヤーAが3のカードで同じように勝利を収めた場合、Aは自分のポイントを3ポイント減らすことができるのです。


 聡明な皆様でしたらもうお分かりでしょう。

 この“対戦”は勝利した際、自分の出した数字の分だけポイントが減らせる。

 同じ4のカードに勝つのなら、2のカードよりも、3のカードで勝つ方がインセンティブが大きい。


 つまり大きい数字で勝利すればその分、ゲームの勝利に近づいてゆくというわけです』


 ——なるほど。それが5枚ものカードを使ってやる理由か。

 桂木は頭の中で、カードの力関係を浮かべた。


 要するに大きい数字は負けるリスクが高い分、勝ったときのリターンが大きい。

 そして数の小さな数字は勝ちやすいものの、リターンは少ない。

 そんな特性を持っているわけだ。


『ゲーム開始時に皆様が所有するポイントは25ポイント。

 “対戦“は全部で21ゲーム。


 21ゲームの終了時点で、自分の所有ポイントを0に近づけたプレーヤーから上位となる。


 それがこの『零ゲーム』なのです』


「……ん? 21ゲーム?」


 桂木たちから5メートルほど離れたところに立つ吉田が、疑問の声を上げた。


「21ゲームでポイントを0にすることなんてできるのか?

 この会場には7人もいる。で、“対戦”は常に一対一。

 “対戦”に参加できる回数が限られる気がするけど」


『良いところを指摘されましたね』


 ルピスの返答と共に、モニターに写る画面がまた切り替わる。

 今度はプレーヤー7名の名前に、表のようなマス目が振られている図が映し出された。


『自分の勝利だけで25ポイントを0にするのは非常に困難。

 ですが皆様はもうひとつ、ポイントを減らせる手立てがあるのです。


 それは自分がゲームに参加していないときに行う“賭け“によるものです。

 

 “対戦”に参加していないターンは、参加しているプレーヤーのどちらが勝つかを当てることで、自分のポイントを1pt減らすことが可能なのです』


 説明が増えてきたな。ちょっと情報を整理しよう。

 桂木はゲームの概要を振り返った。


 “対戦”は2名のプレーヤーが同時にカードを出し、数字の低い方が勝ち。

 ただし1は5に負けるという例外が存在する。


 その“対戦”で勝利すると、出したカードの数字に応じて、ポイントを減らすことができる。

 21ゲームでなるべくポイントを減らすことが目標となる。


 さらにもうひとつポイントを減らす手段として“賭け”の機会が存在する。


 自分が参加していないゲームのときは、参加するプレーヤーのどちらが勝つか予想するというもの。

 当てれば1ポイントを減らすことができる。


 説明はなかったが、聞いた限りでは“賭け”を外してもリスクは無い。


 ここまではいいだろうか。桂木が隣に視線を送ると、唇を軽く噛んでいる御代の表情が見えた。なんか目も血走っている。


 おそらくルールの把握に苦しんでいるのだろう。

 ただ早々に諦めて「もう先輩に任せておけばいいよね♪」となっていないあたりは偉いなと桂木は思った。


『各プレーヤーはそれぞれ3回、相手を指名して“対戦”を行うことができます。

 ゲームに参加をしていないときは、ゲームをしている2名のどちらが勝つかを予想します。

 これがこのゲームの基本と言ってかまわないでしょう』


 7名のプレーヤーが3回ずつ“対戦”で指名を行う。よって21ゲーム。

 ここで桂木は21という中途半端なゲーム数の理由を把握した。


『指名は全員が1度ずつしてから、同じ順で2周目、3周目というように行ってゆきます。

 1周目を第1ピリオド、2周目を第2ピリオド、3周目を最終ピリオドとし、各ピリオドの間には20分の休憩を挟みます。


 その時間は部屋を出て自由に場所の移動ができるので、有効に活用をなさってください。


 そしてゲームセットの条件ですが……』


 モニターに全員の名前と所有ポイントが映される。

 いまは当然、横並びで25ptだ。


『21ゲームのすべてが終了するか、所有ポイントが0になったプレーヤーが出た時点で“零ゲーム“の決着とします。


 さて肝心の指名順なのですが、それはこれから決めていただきましょう』


 ルピスの指に黒い球体のようなものがつままれていた。いや、よく見れば微妙に角がある。多面体のようだ。


『この16面ダイスを使い、数字の小さい順に指名ができることとします。

 それではプレーヤーの皆様はこちらに来てダイスを振ってください』


 俺たちはテーブルの上に用意された黒いダイスをそれぞれ振った。

 それにより指名の順は


1番:タテハシオリ(スーツの女。悪魔)

2番:辻 誠三(老人)

3番:御代 優理(女子大生)

4番:霧継 玲奈(トランク持った女)

5番:吉田 虎太郎(男子大学生)

6番:桂木 千歳(男子大学生 その2)

7番:ミシロユウリ(御代をコピーした悪魔)


 という風に決まった。


(指名をする機会が各ピリオドで1回ずつあるわけだから、最低でも3回の“対戦“をすることになるわけだ。

 それ以外のときは勝敗を当ててポイントを減らすことができる。


 ただ“対戦”で勝った場合は最大で5ポイント減らせるのに対し、“賭け“は当てても1ポイントしか減らせない。

 できるだけ“対戦“に指名されたほうが基本的には有利になるんだろうか)


 桂木はゲーム展開のビジョンを浮かべてみたが、どうにもやってみなければわからなそうな感じだった。


『これからゲームで使用するカードを全員にお配りいたします。カードを無くしてゲームができなくなったり、あるいは他人のカードを使用不能の状態にしたプレーヤーは最下位となってしまうのでご注意ください。


 また他人のカードを本人の同意なく所有した場合も同じく失格となります。

 力ずくでカードを奪っても負けるのは自分。あくまでクールなプレイングを心がけてください。


 ゲームの勝者上位3名は、チップ40枚を獲得。逆に下位3名はチップ40枚を失う。

 これが本戦のレートになります』


 40枚とか……さらっと言ってくれるな。桂木は誰にも聞こえないくらいの舌打ちをした。


 40年という寿命が悪魔にとってどれほどの意味をもつ時間なのか知れないが、人間にとってはおおむね半生くらい。

 くだらないゲームで「っちゃった」では済まされない。


『では早速はじめましょう。これから指名一番手のタテハ様が相手を指名し、“対戦”を行います。

 その他の方々はカードを配られた後、用意された個室にて“賭け”に参加していただくことになります。


 それではタテハ様。6名のうちから1人、自分の対戦相手をお選びください』


 プレーヤーを見渡すタテハ。同時にプレーヤーたちの間にも緊張が走った。

 特に御代なんかはむちゃくちゃ表情が強張っている。唇も微妙に震えていた。


 当たりませんように。そう呟いているようだと桂木には見えた。


「——では桂木さん。お相手をお願いします」


 ……早速か。


 桂木は応答し、小さく息を吐いた。

 

 すぐ脇では御代が心配そうに桂木を見上げている。

 まるで選ばれたのが自分であるかのような顔で。


 ——大丈夫。


 その一言を込め、桂木は御代の頭をぽんぽんと叩いた。

 

『対戦カードが決定いたしました。


 第一ゲームは、タテハ様vs桂木様ッ!


 両名は壇上の椅子にご着席ください。

 それではこれより『零ゲーム』を開始といたします!』

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