第38話 交錯

 ——。

 矢継ぎ早の説明だったが、御代は一度も聞き返すことなく桂木の戦略を理解した。


「それ……すぐに動かないと間にあわないかもしれませんね」

「ああ。さっそく吉田と神谷にアプローチをかける」

「私が行きましょうか」


 吉田と神谷に戦略を伝える。御代は自分からその役目を買ってでた。

 彼女が気を遣ったのは桂木にもすぐにわかった。桂木と吉田の間にある不和はいまだ解消されずにいる。


「——そうだな。頼めるか」


 御代は頷き、そして動いた。


 作戦の第一関門は、吉田と神谷に桂木の推理と作戦を伝えること。

 なるべく霧継に気づかれず、それも5分以内で。決して簡単なことではない。


 だが準備は御代への説明と同時に進められていた。携帯電話だ。

 桂木は推理と戦略の要点を携帯電話に録音していた。


 携帯を掌に収めた御代がルームAへと入室した。

 そしてルームCの出入り口へ背を向けて吉田と向き合った。


 あれなら霧継たちから何をしているか見られない。

 上手いな、と桂木は感心した。


「どうしたの? 御代ちゃん」

「(急いでメッセージを聞いてください)」


 吉田の手にそっと携帯電話を握らせると、彼らの反応も待たずに御代は立ち去った。


 ルームCから霧継がその様子を見ていた。が、おそらく問題はないと桂木は考えた。


 なにかやったのはバレバレだろう。

 しかしなにをやったかまではわからなかったはずだ。


 携帯電話を受け取った吉田は怪訝な視線を送った。御代にではなく、桂木に向けてだった。


 声を出して伝えることはできない。

 だが桂木は、せめて気持ちを伝えなければと思い、唇を動かした。


 信じてくれ、と。


「……」


 メッセージが通じたかどうかはわからない。

 吉田は神谷かみやとともに部屋の隅に移動をし、ルームBにいる桂木たちの視界から消えた。


「あとはあいつらが協力をしてくれるか、だな」

「力を貸してくれますよ。きっと。仲間なんですから」

「そうかな……?」

「そうです」


 仲間なんですから。

 御代の言葉を言い聞かせるように、桂木は胸のうちで呟いた。


「とりあえず、今は返事待ちだ。流れを確認しておくぞ」


 空白の時間を惜しんだ桂木は、現況の最終確認を行うことにした。


「いま避難ポイントを得ているのは霧継と立羽のペアだけ。

 敵はそのリードを守るため、残りのピリオドは全て引き分けを狙うはずだ。


 奴らはもう駆け引きなんか必要ない。

 全員と足並みを揃えてさえいれば、勝ちが確定なんだから」


 だとすれば奴らのやってくることは一つしかない。

 御代はルームAとルームCを交互に見やった。


「他のプレーヤー4人と同じ部屋に避難をしてきますね」

「だろうな。誰も情報を口にしなくなった今、自力でセーフルームを特定するのはもはや不可能だ」


 となるとプレーヤーたちの動きはどうなるだろうか。


まず6人がそれぞれの見た文字の部屋へ移る

2人・1人しか集まらなかった部屋のプレーヤーが、3人集まった部屋に移動を行う

6人全員が同じ部屋に避難完了


「こうなると全員が同じ結果になります。

 結局、霧継さんたちのリードは埋められませんよね」

「奴らにとってはそれが狙いなわけだ。そこを逆手に取る」


 ここまで話したとき、桂木たちのいるルームBに入室した者がいた。神谷だった。

 桂木や御代と言葉を交わすことも、視線を送ることもなく神谷は床に腰を下ろした。


 それは桂木が指示した通りの動きだった。

 桂木は右手で小さくガッツポーズを作った。


 いくぞ、御代

 了解です先輩


 目配せをして、御代と桂木は動いた。


 御代はルームBへ、桂木はルームAへとそれぞれ移動する。


 その際だ。桂木は密かに神谷の手から携帯電話を受け取った。

 それは桂木の預けた携帯とは別のもの。神谷の私物の携帯電話だ。


 桂木の携帯は神谷の手に。

 神谷の携帯は桂木の手に渡った。


 この携帯電話の交換こそが、いま一度、両陣営の信頼を絶対的なものに変える。

 過去の写真を使うトリックは、相手に携帯を確認させた時点で無力と化す。


(これで俺たちと吉田たちは互いに嘘をつけない。次のピリオドで4人分の確実な情報を得ることができるようになった。次は)


 桂木は顔を上げた。全員の配置をその目で確かめる。


 ルームA:桂木・吉田

 ルームB:御代・神谷

 

 桂木ペアと吉田ペアが、それぞれの見たルームへの移動を完了させていた。


 移動フェイズは残り1分。霧継と立羽は全員の配置を見て、ようやく足を動かした。


 向かった先はルームA。

 これで現在の配置は


 ルームA:桂木・吉田・霧継・立羽

 ルームB:御代・神谷


 となった。


(俺と吉田はA。御代と神谷はB。

 それで霧継と立羽がAに移動したってことは……)


 2人のうちどちらかの情報が「A」だったということだ。


 桂木はルームBの御代に向け、小さく手招きをした。

 御代が小さく頷く。御代と神谷の2人がルームAへと入室する。


 第1ピリオドのときと同じく全員が同じ部屋へと集結した。

 装置も全員の腕についていることが、桂木の目にも確認できた。


『時間です。プレーヤー6人の避難場所が確定されました。

 それでは皆様、出発したルームへとお戻りください』


 アナウンスとともに、プレーヤーたちはそれぞれの出発位置へと戻っていった。

 それを見届けたようにシャッターが閉まる。


『セーフルームに避難したプレーヤー、6名。

 トラップルームに避難したプレーヤー、0名。


 ただいまのピリオドは全てのプレーヤーが避難に成功いたしました。


 それでは最終ピリオドを開始いたします。

 装置をご覧ください』


 全員が避難に成功し、第2ピリオドは引き分け。


 ここまでは霧継と立羽の予定通り。

 そして同時に、桂木たちの思惑通りでもある。


(霧継ペアが2ポイント、俺たちが1ポイント。


 これで手筈は整った。

 勝負は最終ピリオド。ここで逆転を狙う)


 装置に視線を落とし、桂木は情報を撮影した。

 撮った情報はそれぞれ「A」と「B」だった。


『それでは移動フェイズを開始します。最後の20分。

 皆様の健闘をお祈りいたします』


「健闘を祈るとか、それをいまさら言うか……」


 そんな桂木の言葉はシャッターの開く音でかき消された。


「いよいよ、ですね」


 隣の御代が呟いた。覚悟を決めた目をしていた。


「勝負はラスト5秒。気を抜かずにいくぞ」


 御代は微笑んで返した。そうして敵の姿の見えるルームCを見やる。


 視線だけの宣戦布告。

 二人は同じ場所を見ていた。


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