第36話 嘘つきは誰か
「まずは第1ピリオドで起こった状況。
セーフルーム2名、トラップルーム4名という結果の種明かしをする。
駆け足の説明になるが、なんとかついてきてくれ」
その場に腰を下ろした桂木は、言葉を挟む時間も許さずに話を始めた。
「全員で同じ部屋にいたのに、罠を回避したのは2人だけ。
これはさっき言った『ディーラーがどうやってプレーヤーの位置を確認しているのか』という疑問と一緒に解決できた。
ディーラーはこの部屋にいない。さらに監視カメラもない。
となるとディーラーは、俺たちに配ったこの装置でプレーヤーの位置を把握している可能性が最も高い」
「え? じゃあ……」
「ああ。
タイムアップ時に自分がいる場所=避難場所になるわけじゃなく。
装置のある場所=避難場所として認識されるんだ。
つまり装置を腕から外せば、身体から離れた場所を“所在地”として認識させられるってわけだ」
ディーラーはルール説明の際にこう言った。
『この装置はきわめて重要な情報を示すものですので、肌身から離さないようにしてください』
重要な情報とは、液晶に表示されるアルファベットの話だと桂木は考えていた。
しかしここにきて、あの言い方は“所在地の情報“も含んでいたことに気がついた。
肌身から離さないようにと忠告があったのも、おそらくそのため。
あの忠告があったからこそ“装置のある場所=自分の居場所“だと錯覚してしまったのだ
桂木たちを騙した“嘘つき”を除いて。
「第1ピリオドでは確かに全員がルームBにいた。
だが嘘吐きの2人だけは時計を外して『セーフルーム』へと置き去りにした。
それで全員が同じ部屋にいたにもかかわらず、セーフ2人、トラップ4人という奇妙な状況になったわけだ」
「なるほど……確かに、それなら」
装置は発信機の役割を果たしている。その理屈に御代はおおむね納得した。
だが当然のことながら、この推理を裏付ける証拠が必要になってくる。
「でも嘘つきの人はどうやって、装置=発信機という理論を確認したのでしょう」
御代は桂木に尋ねた。
「ディーラーから自分が見えていないことに確信がないと、この作戦は使えないんじゃ……」
「そうだな。でもそれを確認するのはそう難しくないんだ。
第1ピリオドの前のやりとりを思い出してほしい。
御代の質問にディーラーが『答えられない』と返した直後だ。
ディーラーは『他に質問のある人はいませんか』って聞いただろ?
そしてその後『いないようなのでゲームを始める』と放送があって第1ピリオドが始まった。
そのときだ。ディーラーが自分を見ていないことを、嘘つきが確認したのは」
「え……どうやってです?」
「おそらく」
桂木はゆっくりと右手を挙げて見せた。
「無言で挙手をしたんだ」
「——あっ!」
御代が甲高い声を上げる。ここで完全に理解をしたようだ。
質問を募集したときに、嘘つきは無言で挙手をした。
にもかかわらずディーラーは『質問は無いようなので』とゲームを進行させた。
これでディーラーからはプレーヤーの姿が見えていないことは確実。
装置=発信機の理論が裏付けられるわけだ。
「まったくとんでもない敵だよ。
嘘つきはもう模擬ゲームの時点で、このゲームを制圧する手段を構築していたんだから」
「いえ……それを見抜ける先輩も尋常じゃないですけど」
御代は目を丸くして手をたたいた。だが桂木は表情に緩みを見せなかった。
まだ解決しなきゃならない問題は山積みだ。気を抜くには早い。
「残る問題は、誰が装置を置き去りにしていたかってことだ。
御代はあのとき、腕に時計をはめてなかったヤツを覚えてるか?」
「うー……ごめんなさい。わからないです。
先輩は覚えてるんですか?」
「いや、わからない。あの時は装置になんか全く注目していなかったしな。
でもその代わり、俺はあるものがずっと気になって見ていた。
それが教えてくれたよ。嘘つきは誰なのかって」
「え?」
ついに最大の謎が明かされるときがきた。察知して、御代は身を固くした。
高まった緊張感が胃を締め付ける。しかし顔を伏せることはなく、桂木と同じ場所を見据えた。
その先は、ルームC。
眉間に皺を寄せた桂木の瞳には一人の女の姿が映っていた。
「俺たちをハメた奴の正体……それは、
全員で勝ち上がる作戦を構築した奴こそ、このゲームを支配する最悪の敵だよ」
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