第14話 脱獄ゲーム

『いま、あなたがたのいる場所が“牢獄の中央”であることをイメージしてください』


 シェリアはそのようにルール説明の口火を切った。


『これからプレーヤーは牢屋からの脱獄を目指します。牢屋は三枚の壁に囲まれており、それらを全て抜けることで、脱獄は完了となります。


 今回は脱獄に成功したプレーヤー全員が勝者となります。


 それではこれから三枚の壁を抜けるために必要なものをお渡しします。上方にご注意ください』


 警告によって、全員の視線が天井へと向かう。いつの間にか、ブロックを抜いたかのような穴がプレーヤーそれぞれの頭上に空いていた。


 その穴からは、不自然に膨らんだ封筒が一枚ずつ落下した。


 足元に落ちた封筒を拾い上げる。表面には“桂木かつらぎ千歳ちとせ様”と書かれていた。

 開封すると中にはキーホルダーのついた鍵が二つ入っていた。


 鍵の形状はふたつとも同じだが、キーホルダーにはそれぞれ『2-A』『2-C』の文字が刻まれ、ほんのり蛍光色に光っている。


『ご確認いただけましたでしょうか。封筒には二つの鍵が入っていたことと思います。

 これから皆様はその鍵を駆使して、脱出を目指していただきます。


 壁の扉をご覧ください。入室した扉の他に四つの扉がありますね。

 いずれかの扉を抜けると、現在地のエリア1からエリア2へと向かうことができます。どの扉からも通じる先はエリア2です。



 エリア2にはまた三つの扉があり、いずれかを抜けるとエリア3へと通じます。

 エリア3には扉が二つ。そこを抜ければ、脱獄は完了です。


 そしてそれぞれの扉を開くのが、皆様に配られた鍵でございます』


 鍵という言葉に、全員が封筒の中身へ視線を落とした。


『鍵にはナンバリングがされていますよね? その鍵はナンバリングの対応する扉を開くことができます。


 例えばこの部屋の扉はそれぞれ“1‐A”“1‐B”“1‐C”“1‐D”と名前が割り振ってあります。

 つまり四つのうちいずれかの鍵を持つプレーヤーは、扉を開けてエリア2へ行くことが可能ということです。


 次のエリア2には“2‐A”“2‐B”“2‐C”の扉が、最後のエリア3には“3‐A”“3‐B”の扉があります。

 合計で九つの扉はそれぞれの対応する鍵で開けることが可能です』


 桂木は改めてキーホルダーに刻まれた文字を見た。手元の鍵は“2‐A”“2‐C”の二つ。

 つまり今は、脱獄どころかエリア2に行くことすらできないというわけか?


 そんな疑問を抱いていると、払拭する説明はすぐにシェリアの口からなされた。


『ナンバー一致の鍵で扉が開いた場合、扉を開けた本人と、次に通過するプレーヤーの二名が扉を通過することができます。

 ちなみに三名以上は通過できません。扉の上部にあるセンサーが人数を感知しますので、ご承知おきください』


「おい、おかしいぞディーラー」


 そこまでの説明で、遠巻きの二人のうちガラの悪い少年のほうが声を上げた。


「扉は全部で9枚って言っただろう。でもこの場には6名に2本ずつ、計12本の鍵があるじゃねえか。

 鍵はひとつの扉に一本じゃねえのかよ」


『よい質問です。上野様』


 褒めながらもシェリアの調子は平坦だ。


『確かに扉の数は9枚。ナンバーの一致する鍵もそれぞれ一つです。


 ですが十二本の鍵の中には、三本のマスターキーが含まれているのです。キーホルダーに“M”と書かれた鍵がそうです。


 マスターキーはどの扉も開けることができます。ただしその場合、扉を開けた本人しか通過をすることができません。


 またマスターキーはそれだけでゲームがクリアできてしまうのを防ぐため、ひとたび鍵穴に挿して回すと、その後は抜くことも回すこともできない仕様となっております。


 鍵をまわしながらでないとドアノブもまわりません。

 使用する際には充分に気をつけてください。


 ここらでルールをまとめましょう。


 ナンバー一致の鍵は二名の通過が可能。

 マスターキーはどんな扉も開けるが、通過できるのは一名。挿すと抜けないので使用も一度きり。


 二つの特性を持つ鍵をうまく利用することが、文字通り、ゲーム攻略のカギとなることでしょう。


 そしてここからは最後の注意点』


 まだあるのかよ。桂木の隣で、渋い顔の吉田が呟いた。


『このゲームでは鍵の交換は認めておりますが、力ずくの強奪は認めておりません。

 よって一名のプレーヤーが一度に所有できる鍵は二本までとします。


 一時的にでも三本の鍵を持ってしまったプレーヤーは失格となりますのでご注意ください。

 他のルールに違反した場合も失格となります。


 さて、なにか質問はございますか』


 ディーラーの声に耳を傾けながら、桂木はルールを反芻していた。


 今いるこの部屋が牢屋の中央。“1‐A”~“1‐D”いずれかの扉を通ればエリア2へ通過。

 次は“2‐A”~“2‐C”、次は“3‐A”“3‐B“のいずれかを通過。


 そしたら脱獄完了。ゲームクリア。


 各自持っている鍵はふたつ。3本あるマスターキーは各一度しか使えないから、現時点でクリア確定のプレーヤーはいない。


 要は他のプレーヤーとの交渉や鍵の交換が、攻略のかなめになるわけだ。


「……質問は無いようですので、ゲームを開始させていただきます。


 ゲーム時間は1時間。賭けるチップは20枚。

 1時間後に脱獄を完了したプレーヤー全員を勝者とし、6名の賭けたチップの総額120枚を分配いたします。


 それでは『脱獄ゲーム』スタートです。良い戦いを期待しております」

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