第6話 クラッシュ・チップ・ゲーム

『それではルール説明の前に、配られたチップをご覧ください』


 アナウンスを聞きながら、プレーヤーたちは混乱の様相を浮かべていた。


 ディーラーとは何者か。ゲームとは何のことだ。チップ? ベット?

 尋ねたいことは死ぬほどあった。というより説明全てが聞きたいことの塊だった。


 が、この時点では思考が追いつかなかったのだろう。

 促されるままに、5人はそれぞれのチップを手にした。


『いま皆様が手にしているチップが、このゲームで使用するチップ。

 同時にこの世界……魔界を脱出するために必要なツールとなります。


 魔界脱出に必要なチップは100枚。

 現在の時点でチップ100枚を手にしているプレーヤーはおりませんが、ゲームに勝つことでチップは増やすことが可能です。


 現在、手にしているチップはギャンブルの元手と考えていただければよいでしょう。大切に保管をなさってください』


 元手……。

 いま、元手って言ったか?


「ディーラー……質問、いいか?」


 ダメもとで桂木かつらぎが尋ねた。

『どうぞ、桂木様』返事は意外にも肯定的だった。


「配られたチップの数は、全員が同じなのか?」

『同じではありません』


 その言葉に、会場にはざわめきが起きた。


「チップの数は同じではないの……!?」

「そ、そんなの不平等だろっ」


 口々に不満を吐き出すプレーヤーたち。にわかにざわめきが起こった。

 けれどシェリアの口から出た次の一言は、そんなプレーヤーたちを一気に黙らせるものだった。


『そのチップはあなたがたの寿命。枚数も皆様の残りの寿命とリンクしております。

 ですから、不平等などはありません』


 水をうったような、という表現があるが、まさしくそんな表現さながらに場は静まった。

 全員が言葉を失っていた。


「このチップが、自分の寿命。

 ゲームでやりとりをするチップが……自分の寿命?」


『その通りです、御代みしろ様。皆様には文字通り、命がけでゲームに臨んでいただきます。

 勝てばもとの世界に帰っていただくことが可能です。それも、寿命100年という手土産つきでね。


 人間の世界ではとても得られない貴重なものです。存分に奪い合ってください。


 さて、それでは“クラッシュ・チップ・ゲーム”ルール説明の方に移らせていただきますね。

 正面のテーブルをご覧ください』


 プレーヤーたちのほとんどは呆然とした表情のまま、テーブルに目を向けた。事実の受け入れが追いついていないようだった。


 けれど桂木は現状の受け入れを放棄して、説明に耳を傾けた。そして御代にもそれを促した。


「考えるのは後だ。とにかく聞くぞ」

「は……い、先輩」


 まともに聞こえているかも怪しいな。無理もないが。

 せめて自分だけでもと、桂木は説明に神経を傾けた。


 わずかの聞き落としが、落命につながるような気がした。


『クラッシュ・チップ・ゲームは相手のベットしたチップの枚数を読み、それより大きなベットを狙うゲームでございます。


 正面にテーブルが見えますね。あそこが戦いのステージです。


 プレーヤーは席に着いたら、2分以内に好きな枚数のチップを、テーブルクロスに覆われたケースに入れます。

 その行為がこのゲームにおける“ベット”になります。


 双方のベットが完了したら、その勝負で投入されたチップの枚数が集計されます。

 そして相手側のベットを上回っていれば勝利。自分の投入したチップを取り戻すことができます。

 逆に下回った場合は、投入された全てのチップが装置によって砕かれます。


 制限時間は60分。最終的に最もチップの枚数が少なかったプレーヤーが敗者、チップ20枚を失います。

 逆に最下位を逃れたプレーヤーは全員が勝者。それぞれ5枚のチップを得ます。


 戦いを挑む回数や相手は自由です。一度も戦いを挑まなくても構いません。ただし、挑まれた戦いを断ることは認められておりません。


 説明は以上になります。それでは、ゲーム開始』

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