第2話 悪魔の九択ゲーム

「遊びのルールを説明するわね」


 にこっと笑う女に、御代みしろは「ちょっと待ってよ」と唖然とした表情のまま口にした。


「あなたは誰? どうして私と同じ顔をしているの?」

「それは鏡に映ったあなたの姿を、借りたからよ」


 女は桜の髪留めを指して答えた。御代とは反転した位置についた髪留めを。


 女は「鏡に映ったあなたの姿を借りた」と言った。

 そのためか。どうやら女の姿は、御代と左右反転しているらしい……ということだけは桂木かつらぎと御代にもわかった。


 それでも何一つ解決しない疑問に、当然のごとく御代は質問を重ねた。


「姿を借りた……え? 何、それ。

 あなたはなん、何者なの?

 それに遊びとか、私たちの世界とか何とか……」


「混乱しているのね。無理もないけど。


 順番に答えるわね。


 私は悪魔。この世界は私の住む場所で、ここはその世界の入り口。

 そして遊びは、悪魔の暇つぶしの一つよ。


 質問はそれで全部だったわね。はじめてもいいかしら」


 それはもちろん、いいわけがない。いいわけがないのだが、桂木も御代もただ呆然と、話を聞くことしかできなかった。

 そのくらい展開は急激で、衝撃的で、御代たちのいうところの“常識“を外れていた。


 それでも話は進む。

 悪魔を名乗る女の思うがままに。


「これからあなたたちにはゲームに臨んでもらうわ。その勝敗によっては、すぐにここから立ち去ることも可能。全力で頭を働かせてね。


 ゲームの名前は『悪魔の九択』。


 限られた権利を駆使して、問いの答えを導くゲームよ」


 まるで手品のように、悪魔の両手にカードが現れた。


 スペードの柄のトランプ。数字は1〜9まで。

 それが1枚ずつある。


「いまあなたたちには、1~9までのカードが見えているわね。

 この中に1枚だけ、裏面に悪魔の絵柄のついたカードが混じっている。

 それがどれかを当てるゲームよ」


「悪魔の絵柄……?」


 険しい表情の桂木に、悪魔は「ええ」と軽く肯定した。


「もちろんカードの裏を覗くのは反則。カードを奪うのもNGよ。


 とはいっても、ノーヒントで正解を出せというのはあまりに酷よね。


 そこであなたたち二人には、それぞれ一度ずつ質問をする権利をあげる。

 その質問に、私は“Yes”か“No”のどちらかで答える。


 二人が質問の権利を使い果たすか、制限時間……そうね。5分にしようかな。

 持ち時間の5分が経過したら、二人のうちのどちらかが解答をする。


 それで正解できたなら、ゲームはあなたたちの勝ちよ」


「質問は全部で2回。解答は1回……」

「のみこみが早くて嬉しいわ」


 復唱する桂木に、悪魔は満足げに目を細めた。

 そんなやりとりを、絶句したまま見届けていたのは御代だった。


「せ、先輩。やるんですか? 本当に。

 その……ゲームを」


 やっとのことで御代は桂木に確認した。

 桂木は悪魔を見据えたまま「逃げられるならそれに越したことはないけど」と小声で返した。


「あいつは俺たちに拒否権はないと言った。つまり、拒否させないだけの手だてがあるということだ。


 悪魔とやらがどういう力を持っているかは知らない。そもそもあいつが悪魔って話から根拠はないわけだが、少なくとも超常的な現象ならすでに目の前で起きている。


 何をされるかわからない今、下手に動くのは得策じゃない」


 姿も形も、喋ってみれば声さえも御代と同じの悪魔を前に、桂木は明らかに警戒の色を浮かべて、睨みつけていた。


 いわば臨戦態勢。逃げるという選択を捨てた桂木は、残されたもう一つの選択へ思考をシフトしていた。


 すなわち、ゲームを戦うという選択へと。

 とてつもなく気は進まないにしても。


「質問に対して、悪魔。お前が嘘の回答をする可能性は?」

「遊びはルールがあるから面白いの。興をそぐような違反はしないわ。


 お喋りはここまでにしましょ。それでは、ゲーム開始」

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