クラウドファンディング

クラウドファンディング

「みなさーん。クラウドファンディングって知ってますかー。たくさんのお金を集めて、それで夢を叶えるという、とっても素晴らしい試みなんですー。お金は、つまるところたくさんの人の愛、そして、その愛が企画を立ち上げた人の背中を押してくれるということなんです。私、この度、クラウドファンディングに挑戦することにしましたー。いえーい、パチパチパチ。なので、皆さんに私を助けてもらえないかと思ってメッセージを送信しています。知らない人のためにも、説明をすると私は七人組のヘヴィメタルアイドルグループ、チャリッツツェツェペリオンの十二代目リーダー、チャチャパガニ花子ですっ。皆さんの視界に一秒でも長くいさせてもらえるように、こんなに可愛く生まれて来ました。笑顔ではじけて、ピンクでキラキラ、最後は一緒にどっかーん。そんなアイドルです。詳しくはURLを張り付けておくのでそこで確認してください。よろしくねー。みんなからの協力を待ってるよー。愛してるー」

　説明せねばなるまい。

　チャチャパガニ花子とは、超絶美少女である。

　そして、本人からの説明があった通りアイドルである。

　非常に有名で日本のみならず世界からも注目されている。これは日本のガラパゴス的アイドル文化から考えれば非常に優秀であり、かつ先進的であると言える。多くの人たちはその姿を神などと言ったりするが、実際には神ではない。狂信的なファンが多いということも、今の説明からなんとなく読み取れることであると思う。

　チャチャパガニ花子では、長いためここからは省略してガニ子とするが。

　このガニ子のデザインした服などはすぐに完売してしまうし、女性人気欲しさにプロデュースした下着などは男性ファンが買い占めて社会問題になったこともある。しかし、このガニ子がスキャンダルなどで芸能ニュースを騒がせたことは一度もないのである。プロ意識は高いが、名前はとにかく意味不明。

　それが、チャチャパガニ花子。

　通称、ガニ子。

　ガニ子が始めたクラウドファンディングであるが、希望金額は二千万円である。初めてのクラウドファンディングとしては挑戦的だろう。しかし、開始一日で達成し、二日目には二千三百万円にまで伸びたのだからさすがガニ子と言ったところである。

　問題は一つある。

　何をするのか書かれていないのだ。

　お金が欲しい。何かに必ず使う。その用途は説明する。

　それのみである。

　未だ説明はない。

　けれど、金は集まる。

　ガニ子に払いたいだけなのだろうが、これは払う側の意思の問題であるので誰かがとやかく言うこともできない。

　期限間近になってくるとガニ子が一体何をしようとしているのかを推察する考察サイトまで登場する始末。大きな祭りとなったわけである。

　そしてなんやかんやあって。

　期限は過ぎた。

　集まった金額は三千八百十二万円。

　ガニ子の動画がアップされる。

「皆さんのおかげでお金が集まりました。有難う御座います。では、ここで私がやりたいことを発表します。それは、同じグループにいるアイちゃんに自由にお金を使ってもらうということです。パチパチ。というのは、アイちゃんと私はとっても仲良しで、アイドル活動以外の時も一緒にいることがほとんどです。そんなアイちゃんは凄く努力家なのに、まだその魅力が世界に伝わっていません。だから、このお金をアイちゃんに渡して自由に使ってもらおうと思いますっ。そして、アイちゃんと私のダブルセンターでもっと世界を盛り上げちゃいますっ」

　ファンは熱狂した。

　ガニ子の仲間を想う心、その友情に打ち抜かれたのである。

　すると、アイちゃんからも動画が出る。

「ありがとうガニ子。そのお金はもらう。でも、あたしもやりたいことがあるんだ。だから、そのお金をつぎ込んでもまだ足りないから、その分のクラウドファンディングを行いますっ」

　熱狂は続き。

　アイちゃんのクラウドファンディングも達成する。

「あたしがクラウドファンディングでやりたかったこと、それはガニ子に自由にお金を使ってもらうことですっ。ガニ子からもらったお金に、あたしがファンの方からもらったお金を合わせて、お返しします。それがあたしなりの友情ですっ」

　ファンは涙を流しながら脱糞を繰り返す。

　アイちゃんとガニ子の美しさはまるで、気高き花。

　感動が波のように次から次へとやってくる。

「私はそれに上乗せしてクラウドファンディングをやってアイちゃんに返します」

「あたしはそれに上乗せしてクラウドファンディングをやって、ガニ子に全額を返します」

「私はプラス一千万で返します」

「アイちゃんに二千万円乗せて、返します。自由に使っていいんだよっ」

　とうとう、一億円を超えたクラウドファンディング。

　お金が左右に動くだけで、札束が上乗せされていくという謎の現象。

　ファンは涙と鼻水と耳だれを流しながら脱糞と失禁を繰り返し、可憐なアイドルの友情の清潔さにもがき苦しみながら笑顔で金を払い続ける。

　拍手喝采大喝采。

　笑顔満開花吹雪。

　極美少女万々歳。

　万札札束重課金。

　失禁脱糞幸福論。

　凄いのは、これだけの大金が活発に動き回っておきながら。

　世界には何も生まれていないということである。