少年と老人

 「Quarters Ratio」とあるゲートを潜ると、そこは魔法の国だった。

 行きかう人は普通だけど、風船が明らかに空を泳いでいる。数多の細長い紙吹雪が、雪空をどこまでも昇ってゆく。


 街の奥にある一軒家に着いた。一際大きな家だ。

 俺はドアの前で、「コンコンコン」と口で言った。

「入りなさい」

 ドアから声が聞こえてきた。

「お邪魔します」

 中に入ると、老人がいた。

「待っていたよ」

 …俺がここに来ることを知らなかったはずなのに。

 俺にここに行けと言ったのは近所のおばさんだったし、この人は滅多に外に出ないからだ。どうせどれもこれも魔法だろう。

「君にこの魔法証書を渡そう」

 老人は明らかにどこにでもあるメモ用紙を一枚千切った。歪な形の紙に、「私の魔法をあなたに授ける」と書く。その手は、震えていた。

 文字の縁がオレンジ色に輝き、薄い煙が立ち上る。連動するように、勝手に「良い旅を」と小さく、紙の端のほうに記された。

「…ねえ」

「おじいちゃんに何か?」

「…死ぬだなんて言わないで」

「言ってないよ。さあ、行ってらっしゃい」

 いつも通り、睨むような眼差しと悪戯っぽい笑みで、老人は俺を、家の外に放り出した。外は一面の銀世界だった。

 家の庭には、俺が小さい頃良く遊んでいた玩具があった。レールを描くと、その上を走る機関車。やがてレールは派手に火花を出して消えてしまうが、機関車は同じところをずっと走り続ける。


 俺は涙を拭って、魔法の街を外へと歩き出した。


 

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