魔王の娘と冒険者

 初めて見たとき、何とも言えない…口の中が、干上がるような感覚がした。

 

 足首まで水に浸かった脚が、白い砂からより白く、すらりと伸びあがる。…俺の腹くらいの高さまで。

 さらに、俺の、顔の高さと同じくらいに…剥き出しの、へそ。

 少し上に…縛られた控えめな膨らみ…空を見上げるくらいになると…尖った顎が始まり…端正な面立ちに…漆黒の瞳が…

 

「何見てる?」

「あっ、えっ、うっ」

 …決して、自分がここまで人間関係が不得手だなんて思いたくない。

 これじゃ野犬のほうが腹から声を出しているだけマシだ。

「…すいませんでしたぁ!!」

「あっ、えっ、おっ、あー。いいよ。よくでかいって言われるし。人間さんには」

「へっ?」

 彼女のおどついた仕草も、人間さんという呼称も気になった。

 獣人、竜人、亜人、異界人、文明人、妖精。大抵何らかの種族に分けられる俺たちだが、人間さん、と一まとめにするということは…

「人間、じゃないの?」

「え。うん。いや、ど、どうかな。人間、なのかも」

「あ、ああ…」

 こういう人(?)ならたまにいる。辺境に住んでる人たちなんて、自分が獣の一員だと思ってるくらい。俺が一応学校を出たから、自分の種族をはっきり知ってるだけだ。

「…でも、俺人間だけど、俺の親族で、こんなでかく育った人いたっけ…?」

「う、うむ」

「うむ?」

「あ、あのね、実は…私のお父さん、魔王なんだ」


「ま、おう?」

「そそ、魔王」

「そそ、魔王、て、……え?あのおっさん子供いるの!?」

「パパのこと知ってるの!?」

「ぎゃああ!来るなあああ!!!」


 バッシャーン!!

 

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