大学生と教授

 たまに、教授にわき腹を触られている…気がする。

 一回目、すれ違った時、ニットをまとったわき腹を3本くらいの指でとん、っとつつかれた。と思う。ちょっとくすぐったくて、でも、考えないようにした。

 次はもっと大胆だった。後ろから抱えられたんだ。「ほいあなたはこっち」って、体を後ろから抱えあげられた。大勢の前で、喋れなくなった時だった。つれていかれて、椅子に座らせられた。もやっとしたけど、「もう、何すんだよ!」って、その時は笑った。

 教授は優しい。私みたいなのにも、優しくしてくれたんだ。はたから見ても、かなり仲良しくらいの部類だったと思う。一緒に顔を寄せ合ってノートを覗いたりしていた。私は単に、たとえそれが教授だとしても、仲良しの人ができてうれしかった。

 たまに、つん、と、わき腹に何か感じることがある。教授は素敵な人だなーと思ったけど、面と向かってつんとされたこともある。「しっかりしなさいよ」って、言われながらだった。これで多分3回目。どこからがセクハラか気になってるとか、だろうか。体を抱えられた時、あ、これ大丈夫かな、教授訴えられないかな、と思った。

 仲良しだからこそだ。

 気になるんだ。当たり前だ。教授とは、仲良しでいたいから。セクハラとかして欲しくない。私のこと好きじゃないのならなおさら。そういうこと、して欲しくない。なのに、人のいない大きな講義室の真ん中で、後ろから、抱え込まれた。

「…」

「…」

 身じろぎすると、ぎゅ、と、少し力が強くなった。む、と思って、逃げ出そうとしたのに、体に力が入らない。

 強くなっても、触るか触らないかくらいの、弱弱しい力だった。あったかい。体温が伝わってくる。

 どうしよう。なんか、動けない。

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