魔女と警官.

 雨が上がり、いつかどこかの街で、こんなやりとりがありました。


「あれ、あなたはあの時の…」

「やめてください」

「何でですか」

「魔法をかけてしまうの。本当にあるのよ」

「はぁ?」

「今まであなたのようになってしまった人を何度も見て来たから」

「魔法なんてあるはずが…」

 躊躇ってしまって、次の句は継げなかった。

 彼女が、本気で怯えているようだったからだ。


「…そういうのは、私は知りません」

「…」

「こっち来てください」

 ちょいちょいと手招きをするが、彼女は来ない。

 仕方なく、

「えっと、一応自分が掛け合ってみたんです」

「ツアーガイドとかは、嫌々やってるわけじゃないのよ」

「わかってます。でも、一応。そしたら、何か奇跡的に話が通りまして。補助金が下りるそうです。あっもちろんあなたの話をしたわけじゃなく」

「…」

 警官は、魔女に向かって歩き出した。


 警官は、彼女の背中にそっと手を添えた。

「来てください。一緒に行きましょう。この辺は治安が悪い」

「…」

 彼女は警官の手に身を委ねた。


 そこには小さな魔法があった。2人は晴れ上がった道をゆっくりと歩き出した。

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