お兄ちゃんとグレナデン

 僕は暖炉の前で眠っていた。


 魂を抜かれたような眠りだった。春が来て、夏になり、秋を迎え、冬を超え、ひょっとしたら、僕はもう起きなかったかも知れなかった。

 それでも、僕はどうにかして目覚めた。

 目覚めると、目の前には、僕が今まで実際に見たことの無い、揺りかごがあった。

 中には小さな人間がいた。


 ぐずる弟を見て、僕は口をへの字に曲げた。

 グレナデンはどこに行ったんだろう。僕が1歳くらいの時には隣にいて、少なくとも3歳くらいの時までは一緒にいたと思う。


 気になってつい、母さんに聞いた。「ねえ、グレナデンいたよね」「うん、いたわよ」

 父さんにも聞いてみた。「ねえ、グレナデンいたよね」「ああ、いたぞ」

 …本当にどこ行ったんだろう?


 今、グレナデンは、絵本の表紙で、「あかいふく」を着て、「きらきらひかってる」。


 グレナデンは、かみかぜふかせてひとだすけをして、サンタみたいにえんとつからじぶんのいえにかえってねる。最高のヒーローだ。

 それでたまにあかちゃんをさらっていくらしい。

 うちの弟をさらって良いから、代わりに僕とまた遊んで欲しい。暖炉の火を眺めながらため息をついていたら、母さんに「子どもなのに黄昏てる」と笑われた。


 最初から、グレナデンなんていなかったのかも知れない。

 でもこれからも、僕はあいつを、ずっと忘れないだろう。


 弟の揺りかごに近づいた。

 僕は、早く一緒に遊べる時が来るように「おおきくなれよ」と言って、弟の、ちっちゃな手にキスをして、毛布に飛び込んだ。





 お父さんとお母さんは、にこにこしながら、お兄ちゃんを見守っていました。

「なってるね。」

「うん、グレナデンになってる。」


 お兄ちゃんは赤い毛布に包まって、暖炉の光で金色に輝きながら、すやすやと眠っていました。

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