魔女と警官1

 海面下には夥しい本数の海藻が、水深50m以上の深みから生えてきている。

 2人が乗った、時代錯誤な小さな木のボートは、海藻の草原を渡っているかのようだった。


「ここは美しいでしょう」

 ボートの上で、ジャケットにパンツ姿のすらりとした女性が言うと、

「はあ」

 分厚い革のコートを着込んだ男性が、櫂を動かしながら答える。

「この辺りも、海だけれどあなたの目指す『灰の街』の一部なんです」

「そうですか…」

 

 ロマンチストがいたら、ボート上の2人を子猫とフクロウだなんて言うことだろう。

 だがそいつの知らないことには、女性のほうが年上なのだ。 

 

 男性が海を覗き込むと、

「おっとっと」

 ボートが傾いで、女性がバランスを崩した。

「あら。ありがとうございます」

 男性は受け止めた女性を元の位置に戻しながら、謝った。

「無駄にがたいが良いもんで。それにしても、あなたは軽い」

「そうですか?」

 嬉し気に女性が言う。船が陽気にちゃぷちゃぷと揺れる。 


 やがて船が、灰の街の粗末な港に到着した。

 2人は、石畳の道を歩き出した。


 灰の街のあらゆる道の隅には、片栗粉みたいな白い小さな欠片が溜まっていた。それらは革靴の先に触れただけで、もう半分に小さくなった。


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