第31話 ランチタイム
四限目を終えて第一講義棟を出ると、正面は魔法科棟前広場。そこを斜めに突っ切って来たのはチャロとスニーの二人組だ。
子供のように走るチャロ。スカートを押さえながら早足に続くスニー。チャロの振り回すバスケットは私のランチボックスだ。
「チャロ! そんなにしたら中身がまたグチャッてなっちゃうでしょ」
「おー、わりーわりー! 急いだ方がいいかと思ってさー。はいよっ、今日はサンドイッチ!」
「うん、ほぼ毎日サンドイッチだよね?」
ランチはほとんどスニーが作ってくれてるみたいだけど、チャロも手伝い程度にはやってくれてるのかな? 何にしてもメニューはサンドイッチ。具だけその都度入れ替わる。何でも食べる私は毎日美味しく平らげた。
正直に言うと
私のすべきことはケネスが復帰次第、彼から話を聞くこと。それを考えると二人から何を言われるまでもなく、自然と反省する心持ちになっていた。気が重いと言えば確かにそうだ。でもあれから一週間。そろそろケネスも戻って来る。彼との対話は
「冴えない顔ね。何かあったの?」
「ううん、何でも。それより、二人とも毎日ありがとう」
「いいのよ、それが仕事だもの。チャロは何もしてないけど」
「パンにガーリックバターとマスタードを塗っただろー!」
「ええ、つまみ食いと交互にね」
「つまみ食いじゃない! 正当な仕事賃だっ」
この二人、何故だか毎日一緒に来る。別に構わないんだけど、よっぽど暇なのかな? スニーはまだしも、チャロは部屋でゴロゴロしてる姿しか見かけない。
「ところで二人は普段、私がいない間とかどうしてるの?」
「んー? 別に何もー。部屋で暇してるなー。侍女やってると魔女のポストも覗きに行けないしさー」
「それはチャロだけ。私は仕事してるわよ? 掃除に洗濯、お針子仕事もね。時間が空いたら読書だとか刺繍だとか、適当に暇を潰してる感じかしら」
要するに二人とも暇を持て余しているみたい。
「たまには街にでも行って来たら? 帰った時にいないのは寂しいけど、もっと自由にしてくれて構わないよ? 二人は侍女って言っても魔女なんだし、外へ出ちゃえばそっちの仕事だってできるでしょ?」
何その目? 二人ともスッと半眼になって生暖かい空気を発し始めたけど……。
「そっかー。ならそーするかー?」
「ええ、たまにはそれもいいかもね」
凄い棒読み。でも気にしてる場合じゃない。直ぐに待ち合わせ場所に向かわないと、温室のベンチが埋まっちゃう。
私はもう一度お礼を言って、直ぐさま温室へ向かって走った。バスケットを揺らさないように走っていると途中でデスピナが合流。待ち合わせの魔女のポスト前ではアシュリーが手を振って待っていた。
人気のランチスポットだという温室はもう中に随分人がいて、確保できたベンチは不愛想に枝を伸ばす熱帯の樹木コーナー。
「あ、また偏ってますね」
「そう。チャロがいっつも振り回すから」
バスケットの中身は色んな形のサンドイッチ。ハムを巻き込んだロールサンドは無事だけど、野菜の閉じ合わせは手直ししないとバラバラだ。もう慣れたけど、できれば形の奇麗なサンドイッチを食べたい。これだとおかず交換みたいなこともできないし。
ばぁぶぅ――!
「おっとっと」
突然髪の中から
「ひょっとして今、精霊が手の中にいたりするんですか?」
「おおーっ、あたし見てみたい!」
二人とも
「きゃー! きゃー! 何ですかこの子? すっごく可愛いー!」
「うわー、赤ちゃんなんだ。でも、この精霊は何の精霊? 確かガラテアが契約してるのは
「…………」
失敗した! 私、アカデミーでは
どうしよう? 生命の精霊は下位の
「す、スラモルとも契約してるけど、この子はクレアトラ?」
苦し過ぎて疑問形になっちゃった。
「クレアトラ!?」
「凄い! それって生命の精霊じゃないですかっ」
ばぎゃー! ふみみっ、もぎゃー!
「火が着いたみたいに泣き出した。あたしが見たいなんて言ったからかな?」
「それはないと思うけど、ちょっとご機嫌斜めみたい」
ペペリットが怒った!? 私が本当のことを言わなかったから?
取り繕いながらペペリットには必死に謝罪の念を飛ばした。精霊を怒らせると怖いことはソーニアで学習済みだ。
ごめんてば。泣かないで。
「でも出て来てくれたってことはこの子、ランチを一緒したかったんじゃないですか?」
「そうなのかな?」
精霊って人間の食事も食べられるの?
確かにステラは言ってた。契約精霊は慣れて来ると人の真似事をするようになるって。
「じゃあさ、試しにあたしの鳥団子をあげてみよう。ほら、泣き止んで。食べてご覧よ、美味しいから」
スプーンで削った鳥団子を寄せて行くと、ペペリットは泣くのをやめて、魔力で引き寄せたそれにパクリと口を付けた。
ばぁぶぅ! きゃっ、きゃっ――。
「ははっ、笑ったー!」
「可愛い! やっぱり一緒にランチがしたかったんですよ」
それからはペペリットも一緒にランチを楽しんで、こっそり袖口から現れたソーニアも、姿を隠したままご相伴に預かっていた。ソーニアったら調子に乗ってアシュリーやデスピナのおかずにまで手を出して、二人とも何度か頭を捻ってた。
考えてみれば三人でのランチはこの先も毎日のこと。なら早い内に本当のことを伝えておいた方がいいのかも。上位精霊二体との契約は私が魔女だって言っちゃうのと変わりないけど、アシュリーとデスピナなら黙っててくれるよね?
「はーっ、ごちそうさま! さてっ、あたしとガラテアはこのあと実践格闘だけど、アシュリーはこのままサロン?」
「はい。今日は礼儀作法の先生を招いての講習会です。私はなんちゃって貴族ですから、細かな作法を覚えられる機会はとっても貴重です」
「礼儀作法なんだ。だったら私も参加したかったな……」
姫君のサロンに入ってからというもの、私の度を超した
ちなみに、アシュリーとデスピナも今や北斗サロンに加入済み。
北斗サロンへの参加は学年も性別も不問。三十名から成る中核メンバーは授業の都合がつく限り全ての活動に参加する。
それとは別に北斗サロンを主体としながらも、催しの内容によって他所のサロンにも参加するのが外郭メンバー。こちらは二十名ほど。
逆に他所のサロンを主体としながら北斗サロンに顔を出すメンバーもいて、彼らは不定期メンバーと呼ばれていた。
北斗サロンのような大規模サロンは週の時間割を半ば以上固定した定期開催が主流になる。より小規模なサロンはそうした大規模サロンの合間を縫って、不定期メンバーを集めての開催が目立つみたい。
北斗サロンが開催されない日はどのメンバーも他のサロンに参加して構わないことになっている。
「そう言えば今週末の新歓ゴルフコンペですけど、私スポーツはしたことがなくて、ちょっと心配なんです。ガラテア様もデスピナさんもゴルフは未経験って言ってましたよね?」
「うん。ゴルフって何するの? 私全然知らない。体を使うことならどうにかなるとは思うけど」
あれ? 二人とも目を丸くしてる……。
「ゴルフ知らないとか本当なの!? えっ、聞いたこともない? テニスに負けないくらい人気のスポーツよ?」
「……テニスって何?」
「うわっ、これどう思うアシュリー?」
「凄いです。私でも本で読んでルールくらいは知ってます。ガラテア様、凄い」
「あ、ありがとう?」
「まぁゴルフのことは講義の合間にでもあたしが説明してあげるよ。それよりさ、新歓コンペが過ぎたらサロン活動が本格化するって話。結構忙しくなって来るみたいじゃない? あたしは今、五限まで講義と教習で埋ってるけど、今後は少し削ってサロン活動に回した方がいいのかな?」
新歓までの二週間はお茶会や講習会が主体。けれども以降は北斗サロンの骨子に関わる三本柱が活動が中心になって行くと聞かされてる。三つの柱はどれも西大陸の開拓に寄与する活動だ。
一つは大学部との共同研究による農地改革。これは西大陸で東大陸の作物を育成しようという試みで、ナディーン様がリーダーとなって大学部の研究農園で土壌や品種の改良による成果を出そうと奮闘してる。
また一つはオーラニオソーマ大陸地図院の免許取得に向けた活動。こちらはビアンカさんを中心に各種免許の取得を目指すもの。未探査地域の調査や地図製作を行う探索者免許と、調査地域の再調査や不明者の行方を追う捜索者免許だ。冬季、夏季の長期休暇には免許取得者を集めて何やら企画もあるらしい。
最後はリンジーさんが牽引する講習会。その目的は新たな企画を検討することで、新メンバーは全員参加を義務付けられている。その上で農地改革か免許取得の一方にも加わって、それぞれの成果を目指して行く。
「どうだろう? 私の場合だと実践魔法は当面削れないかな。魔法を覚えた時期が遅いから、基礎をしっかりやらないといけない。でもその分実践格闘は既定の三回にまで削れると思う。フレディの筋トレも秋の祭典前後までには一段落すだろうから。アシュリーは?」
「私ですか? 私は元々四限目までしか講義のない時間割ですから、講習会と、あとは農地改革の方に参加するつもりでいます」
「土いじりかー。あたしは断然免許だわ。探索でも捜索でも二種免許まで取れれば個人で請け負えるようになるでしょ? ってことは卒業後、直ぐに騎士になれなかったとしても自立できるもん」
大陸地図院の免許は一種が窓口で依頼を請け負う一般免許。二種になると個人事務所を開設できて、事後に成果を地図院と共有することになる。三種は地図院の職員になる為に必要な免許だ。
「デスピナさんの考え方は立派だし素敵だと思います。私の場合、生まれ育ちからして、どうしても商売のことを考えちゃうじゃないですか。そうなると西大陸での農業の成功って凄く魅力的なんですよ。だって上手くすれば国を支えるレベルで貢献出来ちゃいますもん。そうなれば見込める利益だって莫大です。ガラテア様はどっちを選ぶんです?」
「私? そーだなー……」
ナディーン様が陣頭に立つ農地改革一択! とは中々言えない。大学部と提携した研究なんて、どう考えたって私には荷が重い。単に畑を耕せって話なら一も二もなく飛び付くんだけど。
免許も免許で試験が大変そうだ。一応選択科目で地理・地政学を取ってるけど、もっと専門的な勉強をする必要があるだろう。ただ、探索者も捜索者も場合によっては荒事をこなす必要のある職だから、その点では私の鍛え上げた体が物を言う。
「新歓コンペが終わるまで保留かな。どっちかと言うと免許?」
「免許にしちゃいなよ。三年あれば二種免まで行けるって」
「そうですね。時間はたっぷりありますから、今から悩む必要はないと思います」
友達に後押しして貰うと不思議と頑張れる気持ちになる。二人がいてくれて本当によかった。
「それに、リンジーさんの講習会を通じて新しい企画を立ち上げた場合、そっちに参加したっていいんです。だから今ある二択にこだわる必要もないんですよ」
「でも新しい企画って言われてもね。ガラテアやアシュリーは何かアイデアある?」
「魔獣退治とか?」
「それは一人でやって」
「自室から応援してますね」
二人ともひどい。
「でもガラテア様の実力なら、大学部のリクエストに応えて魔獣の捕獲なんて活動もありかもです。検体の入手はそれだけで西大陸の発展に寄与しますから」
「でも二人は手伝ってくれないんでしょ? 一人じゃやだ」
「ガラテアって時々可愛いこと言うわよね。アシュリーは何かアイデア持ってたりするの?」
「具体的にまだですけど、わたしはやっぱり商売に関わることがしたいです。実学として商学に取り組むことで成果を出せればなって思います。西大陸では未だ商流網が整ってませんし、その点では農地改革と同等以上の価値があると思いますよ」
二人とも色々考えてるんだな。デスピナは将来を見据えて免許の取得を目指してるし、アシュリーは得意の分野で貢献できることを模索してる。じゃあ私は何をすればいいんだろう? 剣や魔法の腕ばかり鍛えてもアカデミーにいる内は早々、いざって言う場面に出くわすとも思えない。
「今の私にもできることって何があるかな?」
「んー、人集めとかでしょうか?」
「人集め?」
「何をするにも人材は必要ですから、どのサロンでも優秀な人材は取り合いです。新入生の件が一段落しても、サロン間のスカウトや引き抜きは当たり前にありますよ」
アシュリーは頷ける内容を提案しておきながら、次には自らの言葉を否定した。
「でも簡単ではないですね」
「何で?」
「だって、サロンってぶっちゃけ派閥なんですよ」
「派閥!?」
完全にデスピナと声が被った。派閥って何のこと?
アシュリーは丸眼鏡のブリッジに指を当ててズリ上げた。
「要するにサロンという形で確固としたグループが形成されてしまっているんです。私たちが所属する北斗サロンは北部貴族を中心としたグループ。その対抗馬として同じく二年のダルシー様が主宰されている南部貴族中心の南斗サロンがあります。私が調べたところによると、この二つのグループは去年から引き続き鎬を削っている状態です」
初耳だ。アシュリーは自分のことをなんちゃって貴族なんて言いながら、本当に色んなことをよく知ってる。実際私は講義では得られない知識のほとんどをアシュリーから仕入れてる。
そのアシュリーの説明を受けて、デスピナは腑に落ちたように言った。
「それ分かる。廊下で他のサロンメンバーと擦れ違っても妙な空気が流れる時ってあるもん。あたし今朝ハンカチ落とした子がいたから拾ってあげたんだけど、半歩引いて眉なんかひそめちゃって。あれって結局そういうことでしょ?」
確かにその手の妙な空気ってある。私も時折感じてた。
ふと視線を感じて振り返ると何人か固まって私を見てたり、それで挨拶すると急にそっぽを向いて去って行ったり。
何だろうね? 不思議不思議。
「何にせよサロンというものはそのままで派閥なんです。今デスピナさんが言ったような例は今後も当たり前にあると思いますよ。だから人材の確保と一口に言っても簡単なことではないんです。何しろ――」
アシュリーの眼鏡の縁が光った。どういう構造か知らないけど何かの時にはこうして光る。
私もデスピナも思わず生唾を呑み込んで続きを待った。
「大規模サロンに限らず、規模の近いサロン同士はお互いを牽制し合います」
「牽制? どうして?」
「ガラテアってほんと分かんないのね。あたしは分かる。力の差がはっきりしてれば喧嘩にはならないけど、どっちが勝つかってくらいだと競い合うもんでしょ?」
「デスピナさんの言う通りです。それがあってナディーン様とダルシー様の派閥はギスギスしてる訳ですし、それぞれの側には幾つかの小規模サロンも組して、そこでもお互いにぶつかり合っているんです。学内最大の銀河サロンは三年のミランダ様が率いてますけど、目立った動きは見せてません。だから今の状況は大袈裟に言ったら北斗南斗の二つに割れている状態なんです。ここまで言えば分かりますよね? そう、これは出入りです。戦争なんです。二人の姐御同士が組織の生き残りをかけた血で血を洗う壮絶な戦いですよ! あんたら、なめとったらあかんでぇ!」
「どうどう、アシュリー落ち着いて」
「現実とラノベが一緒くたになってる。深呼吸した方がいいって」
「ハッ、すみません。ついのめり込んじゃいました」
アシュリーのテンションが青天井。それをどうにか宥めた時、私は遅まきながらその名前に思い当った。
「ん? 待って。ダルシーさん? ダルシーさんなら私知ってる」
「え? ガラテア様はダルシー様とお知り合いなんですか?」
「うん」
ダルシーさんはちょっと気が強そうだけど、貴族らしく凛とした人。そんな彼女があの日、野外音楽堂で見せた涙は今も心に引っかかってた。
「見かけるたんびに大きな声で挨拶するんだけど、向こうは軽く会釈してくれるくらいで、ひょっとして私、避けられてたりするのかな?」
「それは……避けられてると思いますよ?」
「どうして? やっぱり泣かせちゃったから?」
「泣かせたの!? いつの間にそんなこと……。色んな意味で凄いなガラテア」
余計なことを言ったかも……。
「そんな猛者を見るみたいな目やめてよ」
「いや猛者でしょ、明らかに。アシュリーもそう思うよね?」
「猛者ですね。ナディーン様の派閥にいてダルシー様を泣かせるなんて、こっちでは英雄、向こうでは悪魔とでも罵られていそうです」
悪魔!? 私が? 騎士なんだけど。魔女なんだけど。
「それだと誤解を解きに行っておいた方がいいのかな?」
「それはー……。やめておいた方がいいと思いますよ?」
「うん、絶対にやめといた方がいい。それはあたしにでも分かる」
「…………」
ナディーン様とダルシーさんの仲がよくないことは私も肌で感じてた。でもまさか、それが派閥ぐるみの対立とまでは思いもしない。それを知らずに私はナディーン様のサロンにいて、ダルシーさんを見かければ挨拶もしてた、と。
なるほど。それはダルシーさんのリアクションが薄い原因なだけじゃなしに、ひょっとしたら北斗サロンのメンバーから何かと視線を集めてしまう理由にもなってたってこと?
でも待って。私自身はダルシーさんを嫌いな訳じゃない。この場合はどうすればいいの? 挨拶の声を小さめにしてみるとか? 向こうだって会釈は返してくれてるんだし、周りに目立つやり方で挨拶しなければ問題ない……よね? うん、それでよさそう。この問題は解決したっぽい。
「ガラテア様?」
「ん、何?」
「いえ、また何か突飛なことを言い出しそうな雰囲気を感じたものですから」
「大丈夫。ちゃんと解決した」
「絶対嘘それ。また何かやらかしそう。魔獣騒ぎの後に直ぐまた
デスピナったら、まるで私を問題児みたいに言う。私は少し物を知らないってだけで、根は至って真面目な人間だ。
「大丈夫だってば。それに剣十字サロンのレイモンド先輩が言ってた。所属サロン以外の活動に参加したって構わないって。ナディーン様も北斗サロンの活動がない日は他所へ行っていいって言ってたでしょ? ならそうやって交流を深めて行けば、そもそもサロン同士の対立感情だってなくせるんじゃないの?」
「ガラテア様。それは甘いです」
「甘い? どうして?」
きっぱりと言い切ったアシュリーの目は私の問いにも揺らがない。
「確かにサロン間の行き来はあります。北斗サロンでも認められてます。所属サロンと別のサロンを行き来する人を渡り鳥りなんて呼びますけど、そうした中には対立サロンをスパイする目的の人もいて、彼らは伝書鳩って呼ばれています。要するに互いの懐を探り合って、出し抜こうっていう考えですよ。ガラテア様みたく裏表のない気持ちで行き来しようと考える人はほとんどいないんじゃないでしょうか」
派閥って怖い。同じ学生同士なのにどうしてそこまで分断されてしまうんだ。
「あ、予鈴だ」
温室のガラス越しにお昼休みの終わりを告げる鐘が響いた。
「ほら、もう時間。ガラテア、急がないと」
「分かった。それじゃあアシュリー、またね」
「行ってらっしゃーい。二人とも頑張って来て下さーい」
空になったバスケットを抱えて西運動場へ。五限目は実践格闘だから、私にとってはフレディを鍛える時間だ。座学で溜まった鬱憤を思いっ切り晴らすぞ。
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