第21話 闇の魔法

 蹴り一発でガタの来た個体はフレディにパス。私は残る一頭との距離を詰めた。 二頭相手にしてみてそれほど手強い印象はなかったけど、警備兵たちは遠巻きに足踏みしてる。何人かは長い尾で弾き飛ばされたみたいだ。それで迂闊に近付けなくなった感じか――。


「おまえ、仲間がやられて警戒してるな。他の二体より隙がなくなってる」


 不用意に近付くと見せて鉱毒魔獣ヴェノムビーストの前半身が沈むと同時に足を止めた。あと一歩か二歩で向こうの間合いに入る。


「おい、そこの君!」


 明らかに私に向けられた声。見上げると魔法科棟の破壊された壁穴から白衣の男が顔を覗かせていた。


「その残った奴は危険だ。そいつが壁を破ったんだ! もしかしたら火精霊サラマンダーの悪霊憑きかも知れない」


 悪霊憑き? こいつが?

 確かに他より一回りは大きい感じだ。でも火精霊サラマンダーの悪霊憑きなら昔戦った経験がある。炎の毛皮をまとったクーガーだ。それに比べると目の前のヤツは鉱毒魔獣ヴェノムビーストと言うだけあって、姿形だけなら牧場で戦った鉱石霊オーレの悪霊憑きに似ていた。ゴツゴツとした岩のような体で、今のところ炎の気配は感じられない。


「おまえ、火を吹くのか?」


 勿論魔獣は返事なんかしない。


「いいさ。試してみれば分かる」


 小剣グラディウスを水平に構えて真っ直ぐに斬り込んだ。少し身を引いた魔獣の狙いは読める。こっちが懐に入る寸前に躍り上がって、爪と牙を真上から叩きつけようって魂胆だ。


「そんな見え透いた手には乗らない」


 僅かに斜線を切って右側面に走り込んだ。後ろ足立ちになった魔獣は身を捻りながら爪を振り下ろして来たけど、遅い。届かない。

 こっちは敵の体側を抜けながら脇腹に剣先を走らせた。するとゴツゴツした肌に弾かれてカカカカカッ――。音に合わせて火打石のように火花が散った。


 ザクッ――。


 後ろ足の頑丈に膨れ上がった大腿筋に小剣グラディウスを突き立てた。岩石質の皮膚を割って刀身の半分がめり込む。その時、傷口から蛇の舌にも似た火が漏れて刀身を舐めた。


「火打石みたいな皮膚といい、中に炎を溜め込んでるのか。昔倒したクーガーとは正反対だ」


 クーガーの時は間合いの取れる長槍スピアーで戦った。インファイトになった今の状況で不用意に剣を引き抜くのは危険かもしれない。壁を吹き飛ばすほどの火力なら尚更だ。ならどうするべき?

 考える間にも魔獣は体を回して攻撃を繰り出して来た。でも突き立てた剣をしっかり握っているから回転運動に釣られて体は勝手に避けてくれる。傍から見れば犬が自分の尻尾を追い回す姿に見えるんじゃないかな? なんて思っていたらそれが油断になった。


「うわわっ!?」


 回転の遠心力でスポーンと放り出されてしまった。離れた瞬間炎を警戒して顔を庇ったけど、熱に煽られた感じはしない。不思議に思って握ったままの小剣グラディウスを確かめるとポッキリと中折れ。でもそれが、ただ折れた訳じゃなった。


「これは、溶けたのか……」


 傷口にはそのまま刀身が埋まっていて、それが栓になって火を噴かせなかったんだろう。

 小剣グラディウスが折れた原因は恐らく体液によるものだ。一頭目の頭に突き立ててから二分は経ってる。その間に体液に含まれた毒性が刀身を腐食させたと見ていい。

 さて、次の手は? このまま火を警戒しつつ蹴りで戦うのもあり。ただ、さっきの警告を考えると、毒と火を相手に素手格闘をするリスクは高めに見積もっておく必要がある。この場合どうするのが最善か――。


「……武器が欲しいの?」


 その声は突然に肩口から発された。


「ソーニア?」

「持って来てるわよ……、貴女の武器」


 肩の上に姿を現したのは闇巨霊ソーニア。相変わらず不愛想なジト目をして、でもそんなところが返って可愛く思える私の契約精霊だ。


「私の武器? それって全部魔女の館に置いて来たはずだけど」


 アカデミーの実技教習ではアカデミー側が用意している教習用の武器を使う。だから生徒が個人的に武器を用意する必要はない。勿論、寮室に置いておく分には問題ないけど、相棒のポルックスを魔女の館に置いて来たのに、愛着のある武器だけを部屋の飾りにするのは違うと思った。だから私の剣も盾も全ては魔女の館に置きっぱなしだ。


「どこに持って来てくれてるの?」

真っ暗蔵ウェアハウスの中よ……」

「何それ?」

「ソーニアの魔法よ。何でも入るの……。服の陰にでも手を入れてみて……」

「服の陰? そんなこと言われても……」


 契約精霊が勝手に魔力を用いて魔法を使うことはある。そのことは魔女の館でステラから教わった。特に契約して間もない内の上位精霊は、自分の判断であれこれすることがあるから付き合い方を注意しなければいけないと警告されていた。

 ただし、この場面でソーニアが私を煙に巻く意味はない。契約した以上、例え勝手な行動であってもソーニアは私の役に立とうとするんであって、その逆はない。だから素直に信じた。信じたけど、問題は服の陰という言葉。私はつい戸惑ってしまった。


「あ、ここでいいのかな?」


 考え至って背中を丸め、スカートの中に手を突っ込むと、


「貴女バカなの? 袖口でも何でもいいじゃない……」

「え?」


 確かにちょっとみっともない猫背だったかも。スカートの中に入れた手はひんやりとして、次の瞬間目当ての物を掴んでいた。引っ張り出して構えたのは愛用の馬上剣ロングソード


「本当に出て来た。手品みたい!」

「魔法よ……。ねえ、荷重付与ウェイトウェポン……使ってみたら?」


 ソーニアはこっちの不思議なんかまるっきり聞き流して話を先に進めようとする。

 荷重付与ウェイトウェポンは下位精霊の闇精霊スラモルにも使える闇の接触魔法だ。魔女の館では基礎となる内燃魔法を反復して魔法に体を慣らして来た。接触魔法や投射魔法は発動練習だけ。実際に試したのは実技試験の一回きりだ。

 今手にしている馬上剣ロングソードはそのままで私のワンドだから、魔女の制約は問題ない。魔女の館では木剣を使っていたけど、このまま馬上剣ロングソード荷重付与ウェイトウェポンをかければ、打ち込むたびに相手に荷重を加える魔剣に化ける。


「最後には重力で押し潰しちゃえるわよ……」

「それは凄い。でも私はまだ実践で魔法を使ったことがないし、ステラからは人前で人間離れした魔法は使うなって言われるんだけど」

「ふーん。あんな女の言うことを聞くのね……」


 ソーニアはステラが嫌いだ。出会い頭に辛気臭いとか言われればそうもなる。


「ソーニア確認。闇精霊スラモルに使える魔法なら威力は大したことはないよね?」


「……そうね。何ならソーニアの方で調整して抑えてあげる」


 ソーニアのサポート付きなら大丈夫そう。

 ただ、問題は魔法の使用そのものに関すること。

 そもそもアカデミーは武器の携帯同様、生徒の魔法使用を制限してる。使用できるのは害がないとされる魔法だけで対象は自身。或いは同意する他者に限定されていた。

 それに、万が一魔女だとバレればアカデミーにいられなくなる可能性だってある。アカデミーにはメクセラがいるけど彼女はあくまで教える側。アカデミーは人間の為の教育機関であって、過去に魔女が生徒だった例はない。

 私としては当然退学のリスクは避けておきたい。でも今のこの状況、早く終わらせるに越したこはない訳で――。


「分かった。なら軽めにお願いできる?」

「いいわ……。じゃあ唱えて」


 契約精霊に魔法の制御を任せるのも自動制御オートマチックと呼ばれる契約魔法だ。発動後の魔法制御を全て任せてしまえるから、こっちは戦うことにだけ集中できる。勿論その分余計に魔力を持って行かれるけど。


「じゃあ行くよ」


 両手で構えた馬上剣ロングソードを天に突き上げ、波動受容体の魔力に意識を集中。何度も繰り返した手順を思い返して、熱を感じたところで魔法を唱えた。


自動制御オートマチック荷重付与ウェイトウェポン!!」


 一瞬体が重たくなって、次にまたフワッと軽くなる。

 闇の精霊は特に空間と重力の魔法を得意とすることからそんな感覚が起こるみたい。これがペペリットになると全身に活力が漲るような感覚が起こる。

 波動受容体から流れ出した魔力が血流のように両腕を伝って行く。丹田アブドメンからオーラを吐き出す時と酷似した印象だ。

 袖口から漏れ出した闇は握りを伝ってみるみると刀身を覆い込み、焔紋剣フランベルジュのように黒く燃え上がった。

 うん、何だかとっても魔法っぽい。魔法っぽいのはいいんだけど――。


「ちょっと何これ……?」

荷重付与ウェイトウェポンでしょ……」

「禍々し過ぎるんだけど!? 大丈夫なの? 刀身に絡み付いた闇がミチミチッておかしな音を立ててるけど?」


 魔女の館で練習した時はこんなじゃなかった。練習用の木剣は片手剣ショートソードサイズだったけど、大型の馬上剣ロングソードだとこうなるってこと? でもこれじゃあまるで……。

 握り締めた剣が彷彿とさせたのは、正義の騎士を追い詰める悪の騎士の剣。

 え? 私これで戦うの? イメージがちょっと……。


「来るわよ……」


 闇をまとう剣にすっかり気を取られてたら、態勢を立て直した魔獣が牙を剥き出しにして、前足で地面を引っ掻いた。

 こうなったらもうこれで行くしかない。


「分かった。せっかくの機会だし、どれだけの威力か確かめてみよう。お願いね、ソーニア」

「任せて……」


 私は剣を舟の櫂を取るように横に構えた。それを見た魔獣も前半身を深く下げて後ろ足に力を溜める。


「行くぞっ!」


 示し合わせたように地面を蹴って突撃対突撃。互いに咆哮を上げながらフェイント抜きの真っ向勝負。

 私は走りながら丹田アブドメンに気を集めた。大叔父に教わった通り、渾身の一撃を放つ時はインパクトの瞬間にあらん限りの力を放つ。

 大叔父直伝、真騎士道三十六攻の第一攻――。


「受けてみろっ!! 斬撃最強、一刀両断グレートディヴァイダー――!!!」

「ちょ、ちょっと……!」


 ん――?

 ソーニアが今何か言った? でももう遅い。

 オーラを放った瞬間、全身の筋肉がここぞとばかりに打ち震え、この瞬間の為に鍛えて来たんだと、そう言って戦慄わなないた。

 体幹筋から起こった力の波は体肢筋の隅々にまで伝わって、全身から集めた熱が刀身に集約される。

 オーラと闇の融合。

 そして――。


 バチン――!! からの ビシャア――!!


 瞬間、火花と炎の煽りを受けたけど、それはほんの一瞬のこと。

 それにしても何だろう今の手応えは? 予想と違って変だった。

 私は空振りを考慮して、長い刀身で地面を抉らないよう、横から撫で斬りに斬り払った。さっき小剣グラディウスを突き立てた感触からしたら、斬り払いには突き以上の抵抗があって当然だ。なのにバチンと来てビシャア。


「ちょっと待って。ビシャアッて何?」


 斬り払いの残身で横を向いていた体を戻す。するとそこに魔獣の姿はなくて、ただ足下にバスタブのお湯を目一杯ぶちまけたような赤黒い血溜まりだけが広がっていた。


「えっと、ソーニア、これは?」

「…………。強過ぎたみたい……。一発で潰れちゃったわ……」

「ええー!?」

「でも私、軽めにってお願いしたよね?」


 何ブツブツ言ってるの? 「弱すぎる」って? そーじゃないでしょ! 明らかに魔法の威力が強過ぎたんでしょっ。

 私だって一撃で仕留めようと思った。牧場でやって見せたように真っ二つに。それがまさか跡形も残らないとは……。


「おかしいと思った。あんなに禍々しい闇、どう見たって軽めじゃなかったもん」

「ソーニア悪くないもん……。貴女が急に引っ張るから、負けないように引っ張り返しただけ……」

「私が引っ張った? 何を?」

「魔力……。グイッてしたでしょ……。急に貴女の内側に流れ込んだから、ソーニアは慌てて引っ張り返しただけだもん……」


 チンプンカンプンで何も分からない。

 ひょっとしてオーラを使ったことが魔力の流れに影響した? タイミング的にはそれくらいしか思い浮かばない。

 今回は自動制御オートマチックでソーニアに任せてたから気に留めなかったけど、オーラと魔力には何か関連があるのかも。


「それに闇は禍々しくなんてないし……、魔獣だってちゃんと倒せたでしょ……」

「確かにね。でも――」

「褒めて……。ソーニアは褒められて伸びるタイプなのよ……」


 この期に及んで褒めて伸ばせと仰る。これだけやってまだ伸びようとは実に見上げた根性だ。

 何はともあれ毒や炎を持つ相手に危なげなく勝つ必要はあった訳だし、それができたのは間違いなくソーニアのお蔭。この急場で予想より上の結果なら文句を言うのは筋違いだ。


「ありがとうソーニア。お蔭でヒヤリともしないで勝てたよ」


 ソーニアはそれと分からないくらいのはにかみを見せて、それっきり照れ隠しのように姿を消してしまった。

 ふふっ、私の契約精霊は本当に可愛いなぁ!




 ***




 はわわっ、私は一体何を見ちゃったんでしょうか?

 デスピナさんと一緒に駆け込んだ大講堂で、閉じるように言われた戸口の隙間からこっそり事態を見守っていたんです。

 だって心配になるじゃないですか。お貴族様とはいえ、同い年の学生でしかないガラテア様が鉱毒魔獣ヴェノムビーストを相手に戦えるなんて、本気では思えなかったんですもん。


「何あれ? アシュリー、今の見てた?」

「見てました。見ちゃいました。一匹目は剣で、二匹目は蹴っ飛ばして、三匹目のあれは一体……」

「あれは闇精霊スラモルの魔法でしたわね」


 しゃがみ込んだまま振り仰ぐと、デスピナさんと対になって覗いているのは上級生の方でした。袖口のラインが二本だから二年生。デスピナさんが大講堂へ向かう途中に見かけて、そのまま引っ張て来ちゃった方です。


闇精霊スラモル? じゃあ今のは闇の魔法ですか?」

「ええ、闇の下位精霊と相性のいい方でしたら大抵は使える基本の魔法ですわ。武器に闇の魔力を込める接触魔法。でも――」

「でも?」

「威力がおかし過ぎますわ。ここからだとハッキリとは確認できませんでしたけれど、たったひと振りで魔獣が消えたように見えましたわ」


 確かに。

 ガラテア様と魔獣がぶつかった瞬間にバチンッて凄い音がしました。そしてそれっきり、私にも魔獣の姿が消えてしまったかのように見えたんです。


「凄いなガラテア、神ってる。剣で一撃。魔法で一撃。どっちで戦ってもバカみたいに強い」


 デスピナさんが感心するのも当然です。私はどっちも才能がなくて、剣も魔法も選択してないですけど、そんな素人から見てもガラテア様が凄いのは分かります。何て言うか、次元が違うんですよ次元が。だって建物の爆発があってから十分と経ってないのにこの結果なんですよ? 全部で五分くらい? とにかくあっという間だったんですから。


「あれ? でも待って」

「どうかしたんですか? デスピナさん」

「うん、確か入試の少し前だったかな。あたしの地元で妙な噂話が流れたのよね」

「妙な噂、ですか?」


 はて? いきなり何の話でしょう?


「そう。確かフォボス州の牧場での話だったと思う。悪霊憑きが出て、それを女の子がたった一人で倒したって言うんだけど、それが何だって言ったっかな――」


 女の子が一人で悪霊憑きを倒した? それはたった今私たちが目にしたことと何が違うんでしょうか。


「あっ、思い出した! モンスターキラー! そうそう、確かガラテア・ザ・モンスターキラーって言ってた」

「ガラテア・ザ・モンスターキラー!?」


 二年生の先輩と奇麗にハモッてしまいました。


「じゃあ、そのガラテアって……」

「うん。名前といい、やって見せた事といい。眉唾だと思ってた牧場での話も本当だったってこと――。うわっ、どうしよう? あたし凄いヤツと出会っちゃった」


 デスピナさんの話によると、そのガラテア様と思しきモンスターキラーさんは、月明かりの牧場で、たった一撃で、悪霊憑きの胴体を真っ二つにしちゃったんだそうです。何ですかそれ? 本に出て来る伝説の勇者様ですか?

 私と同じ十四歳で、女の子で、なのに剣も魔法も既に噂になって広まるレベル。そんな物語の中にしかいないような人が今、こうして目の前に……。


「まずいですわね」


 夢現ゆめうつつの想いでいたら頭の上で先輩さんがこぼしました。広場の方を見ると魔法科や格闘科の先生らしい大人たちが、大勢の警備兵を引き連れてやって来たところです。

 まずい? どうしてです? 寧ろよかったのでは?


「フレディー!!」


 先輩さんが叫びました。フレディ様はガラテア様と広場に残ったカーブラック家の御曹司さんです。それをいきなり呼び捨て!?

 びっくりして襟章ピンバッジを確認するとまたまたびっくりしちゃいました。こちら先輩もカーブラック家の方だったんです。二年生に同家の方がいることは知っていましたけど、まさかドンピシャでその人だったとは。確かナディーン様って仰ったような。なんちゃって貴族の私は何から何までうろ覚えです。

 ナディーン様? はフレディ様に何やら手振りで伝えているみたいでした。するとフレディ様はガラテア様の腕を掴んで、そのまま第一講義棟と第二講義棟の合間の小道に消えて行ってしまいました。




 ***




 爆発音がした直後から講堂の中は大混乱。アカデミー中の学生がごった返して立錐の余地もない状態よ。三年のミランダ様が壇上から平静を呼びかけていたけれど、彼女にしても事態の把握はし切れていないみたい。勿論私も――。


「ダルシー様!」

「ロサリア! この騒ぎは何? 一体何が起きてるの!?」


 講堂の中央付近にいた私には何一つ現状を知る術がなくて、こっちがあたふたしている間にナディーンに出し抜かれでもしたらと思うと、苛立ちが収まらなかったわ。


「それが、魔法科棟から研究用の魔獣が飛び出して来たとかで、新入生が――」

「まさか襲われたの!?」


 前代未聞の事件が起きたのかと青褪めたのだけど、


「いえ、三体もの魔獣を全部倒してしまったそうなんです」

「は?」


 我ながら間の抜けたリアクション。でもロサリアの言葉の意味が直ぐには呑み込めなかったんだもの。仕方ないでしょ。


「最初は剣で、次にその、足で蹴ったとか。最後の一体は魔法で倒したそうです」

「何ですって? 貴女が自分で見た訳ではないの?」

「いいえ、今さっき戸口から見ていたという人たちに聞いて来ました。あっ、そうそう。隣りの戸口にはナディーン様もいらしてましたのよ」

「ナディーン様が?」


 彼女も見ていたなら他の誰かが嘘を撒き散らしたとも思えないわね。


「それでその生徒は何者なの? 南部の生徒?」

「そこまでは分かりませんわ。でも誰かが、ガラテア・ザ・モンスターキラーって口にしていたのは耳にしました」

「ガラテア・ザ・モンスターキラー? つまりその新入生は女生徒だってこと?」


 生徒が魔獣を倒しただけで信じ難いのに、それが新入生でしかも女生徒? ならよっぽと魔獣が弱かった?

 いいえ、それはないわね。警備兵の騒ぎ様からしてかなり危険度の高い状況だったと分かるもの。

 剣と蹴りと魔法? それ自体は分からなくもないけれど、いえ、やっぱり分からないけれど、新入生の女子が? てゆーかモンスターキラーって何?


「いずれにせよ規格外の上にも規格外な新入生みたいね。だとしたらここでじっとしてもいられないわ。行くわよ」

「行くってどちらへですの?」

「その新入生に会いによ。決まってるでしょ。もし彼女が南部の人材なら絶対に他へは渡せないわ」


 ガラテア・ザ・モンスターキラー。

 謎の新入生の少女。

 ブランペインの方も気になるけど、今は彼女が最優先よ。これだけ派手なお披露目をしたルーキーをナディーンにでも掻っ攫われてご覧なさい。ここまで拮抗して来たのに、大きく水をあけられてしまうわ。

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