第12話 衝撃の事実
二日目の筆記試験が終わった。
まー、あの程度は余裕だ。こっちは物心付く前から家庭教師を宛がわれて、アカデミー合格の為に勉強させられて来たんだからな。
午後は実技試験。それで二日がかりの入試も終わる。試験会場の運動場へ向かう途中、制服姿の姉貴と擦れ違ったが無視してやったぜ。
姉貴は自分のサロンを大きくしてアカデミーでも上手くやってるみたいだが、それにあやかろうなんて気、こっちには更々ないからな。
「名前と受験番号を」
「フレディ・カーブラック。〇〇五番」
「結構。では向こうで運動着を受け取って、更衣室で着替えて来るように」
ドンッ――。
「おっと、悪い」
「大丈夫です」
あれ、今の奴は確か……。
「名前と受験番号を」
「ガラテア・ブランペイン。受験番号は五〇七番です」
ブランペイン? それも最近どっかで聞いた名前だな。
いや、そーじゃなくて。今の奴、昨日のダンス試験でやたら目立ってた奴だよな? 俺は第二プールで踊ってたが、姉貴とペアを組んでやがるのを確かに見たぞ。あの後ろで縛った青い髪。間違いない。
それにしてもいるんだよな。あーやって髪を長く伸ばしたチャラ男君がよ。ダンスの腕前はどーだか知らねーが、今からやる実践格闘はそうは行かねー。あいつと当たったらボコにしてやるぜ。昨日が天国なら今日は地獄ってヤツさ。可哀相にな。俺に目を付けられちまうとは。
「うへ、男くせぇ」
入るなりムワッと来た。
運動場の隅に建てられた更衣室。それなりに広さはあっても、受験生の数は在校生より多いんだからこうなるよな。最悪のイモ洗いだぜ。
確か毎年二百人くらいだったか? 受かるのは。ここにいる連中も三分の二は落ちるって訳だ。競争率で見りゃ悪くはないが、元々自信のない奴は他を受けるから、その点で言うと、ここにいる連中はみんなそれなりの自信があるってことだ。ま、今から俺がその鼻っ柱を軒並みへし折ってやるんだけどな。
「ここ、空いてる?」
「ん、ああ、誰も使ってねーよ」
何だよ。隣りのロッカー、チャラ男君かよ。こいつ、剣持ってフラフラ踊り出すんじゃねーの?
「へぇ。君、結構鍛えてるね」
「あん?」
「まぁ、私の筋肉の方が上なんだけど」
ちょっと待て、今こいつ何て言った? 「私の筋肉の方が上」とかなんとか言っちゃわなかったか?
おいおい、ふざけろよこの野郎。なら俺様の鍛え抜いたシックスパックを見せてやろーじゃねーか。
「ふっ」
どうだ。声も出ねーだろーが。
「へー、やっぱりちゃんと鍛えてる」
そう言って奴は上着をロッカーに押し込むと、腕をクロスさせて肌着を捲り上げた。
「――っ!!?!」
「どう? これが鍛え上げた騎士の体だ」
いや待て待て! 色々と待ってくれ! おまえ、いやっ、確かに筋肉凄いよ。細マッチョだけど俺よりパックリ割れてるよ。それは認める! 認めるけどおまえ、その、腹筋の上の方の、こう、ぷっくり膨らんだそれは何だ? え? ドッキリか? おまえ…………。
「女じゃねーか!」
ピシッ――。
思わず叫んだわ。いや叫ぶだろ普通に。何やってんだこいつバカだろ!? 女が男子更衣室で躊躇なく脱ぐなよ!
そりゃ周りもフリーズするわ。今ピシッて聞こえたもんな。誰も動けなくなったぞ。おい、どうしてくれるんだよこの空気。俺がどうにかしなきゃなんないのか? やめてくれ。俺は女は苦手なんだ!
「私は男だけど?」
寝言が聞こえたぞ。
「はぁ? でもおまえ、その胸……」
「大胸筋と小胸筋。それを前鋸筋が斜め下から押し上げてるんだ」
「いや、うんっ、違う!」
それおっぱい! 確かに大分筋肉に浸食されちゃいるが、おっぱいだからな!?
「いや、おまえ普通に女だろ! おまえらも同意するよな!?」
沈黙を保ったまま全員、物凄い勢いで同意の首振り運動。ほとんどヘッドバンギングに近い。激しく同意ってヤツな。
「まだ言うのか……。だったら私より筋肉の劣る全員が女ってこと?」
食い違い方がおかしい。
「筋肉の話はしてねーんだよ! 筋肉から少し離れろよっ」
「なら聞くけど。私は騎士を目指してるんだ。女が騎士を目指すと思うのか?」
一貫性がねぇ! こいつ必須三学の点数絶ってー低いだろ。
「いやいるだろ女騎士も。帝国は
どうにか解らせて追い出そうと思うんだが、こいつ全然ダメだ。こっちが口を開くたびに不機嫌そうな顔になって行きやがる。俺が悪いのか?
「そこまで言うなら証拠を見せてよ」
「証拠だぁ?」
「私が女で、君たちが男だって言う証拠」
「ばっ、おまっ……」
それは…………。
振り返ると全員視線を逸らしやがる。その癖チラチラとブランペインを盗み見しやがって……。あ、てゆーかこいつ、ガラテアって言ってたよな? それ女の名前じゃん。
「ガラテアって女の名前だろっ」
「それ、よく言われるけど、私はガラテアって名前の男なんだよ!」
ふざけんなっ、俺より先にキレてんじゃねぇ!
「いやいやいや、違う違う違う。違ぁぁぁぁぁぁぁぁう! おまえチ〇コ付いてねーだろーが!!」
世界が静止した。沈黙が耳に痛かった。
帝国御三家に生まれついたこの俺が、女に向かってその単語を口にしたんだ。もう十分だろ? 早くこの地獄を終わらせてくれ!
「チ〇コ?」
やめろ! 小首を傾げるなぁぁ!
おまえはどっか別の惑星から降って来たのか!?
「付いてるって、どこに付いてるの?」
おい前進して来るな。いい加減後退しろ。おまえは先ず退くことを覚えろ!
「股間に付いてるよ」
誰だ余計なことを言いやがったのは!?
振り向けばまた全員が顔を逸らす。だが分かったぞ。口笛吹きそうな顔してるアイツだな。しかし今はそんなこたぁどーだっていい。とにかくこの筋肉女をどうにかすることだ。
「股間に? 私には何もついてないけど……」
女ぁぁぁ! 股間をペタペタてしんじゃねぇぇぇ!!
マジでバカすぎるだろこいつ! いや誰だよ女をこんな風に育てやがったのは!? そりゃ貴族なら幼い頃に性別を違えて育てるってこともあるけどよ、あるにしたってここまではねーわ。明らかにやり過ぎだろ!?
「ちょっとみんなのを見せてよ」
「は?」
見せろって言ったか? 本気かよ……。
いや、本気なんだろうな。つーか本物だわ。何も分かっちゃいないんだよこいつは。でもどうするよ? ここまで分かってない奴にどうやったら現実を理解させられる?
「それが証拠だって言うなら見ないことには分からない。違う?」
ご尤もだよ。おまえの言ってることは正しいよ。その正しさに免じるって訳でもねーが、こうまで煮詰まってたらもう他の手段なんざねーんだろうな。
くそっ、まじか。やるしかねーのか?
もしこの膠着状態でほっといてみろ。試験官が様子を見に中に入って来る。したらどうなる? 半裸の男が山ほどいて、たった一人の半裸の女。誰がどう見たってアウトだろーが。
よし、もういい。これ以上は時間の無駄ってもんだ!
「おまえら、いいか! 一斉に行くぞ!」
ゴクリ――。
どうゆう訳か追い詰められた男子全員が引くに引けないこの状況に生唾を飲んだ。おまえら、もう考えるのは止めにしろ。
「いっせーの! …………せっ!!」
ズルン! からの、ボロン!
あっちゃあならない光景だが、いっそここまで来るとスッキリもした。さぁ、これで文句はないだろ? 早いとここっから出てってくれ。頼むから!
「なっ、何だそれは!? まさかっ、悪霊憑きなのか!? みんな取り憑かれて……? 大変だっ」
土俵際で残すんじゃねぇぇぇぇ!!
「大変なのはおまえの頭だよ! いい加減分かれよ! な? 悪霊憑きでも何でもねぇ! これがチ〇コだ。こいつが付いてんのが男で、付いてないのは女! それが世の中のルール! 世界の仕来たり! 大宇宙の真理なんだよ! もう異論反論一切受け付けねーぞっ、分かったら今直ぐに出て行け!」
奴のロッカーから上着を引っ張り出して押し付けてやった。それまで堂々と曝け出されていた胸が隠れてひと安心だ。こっちも堂々と見せつけたナニを仕舞って、ようやく生き返った心地になる。
ガラテアの顔を覗くと、さっきまでの気色ばんだ表情が消えて、血の気の失せた顔になってやがった。…………言い過ぎたか? いや、でも仕方ねーよな。俺はベストを尽くしたぞ。帝国御三家の血を引く俺がここまでやったんだ。それだけは自信を持って言えるぜ。
***
女…………? 私が?
えっ、だって、大叔父は騎士は男の誉だって言ってた。男の誉なんだから、それを志す私も男のはずだ。
でも、私には証拠がない。今目の前でみんなが見せつけているヘンテコな形をしたものを私は持ってない。だとしたらやっぱり、私って女……?
それを持っている者が男で、持っていない者は女。
それが世の中のルールで世界の仕来たり。そして大宇宙の真理――。
ぐにゃ~~――。
世界が歪んだ。
私は女だった?
言われてみれば大叔父と男同士で裸の付き合いをしたことはない。私は気にしなかったけど、バスもサウナも大叔父は別々に分けていた。一人用の小さな浴槽だったし、サウナも狭かったから、てっきりそのせいだと……。
でも違った?
私が女だから別々にしてたってこと?
理由を付けて髪を切らせなかったのもそういうこと?
「あ、わ、私……」
「分かったらさっさと出て行け! 女子更衣室は隣りだっ」
ほとんど無意識に肌着を着直して、突き返された上着と着替えの運動着を抱えて、何も言い返せずに出て行くしかなかった。
「おい、その運動着も女子用の物と代えて貰えよ!」
そんな言葉は右から左に筒抜けになってしまって、もう、何も分からない。自分が女だということを、心底分かりたくなかった。
「私は…………」
ずっと夢を見てた。
いつか颯爽と姫君を守る騎士になるんだと思ってた。
物語に出て来るような
大叔父が騎士だと言ってくれて、私もそうなれると信じた。信じてここまで来たのに。なのに……。
「君、どこへ? そろそろ試験を始めますよ」
「っ……!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
叫んだ。
走った。
上着も運動着も放り捨てて、どこへ向かうのかも分からずに。
全部嘘だった!
夢も希望も最初からなかった!
女でも騎士になれる?
違う!
女の騎士なんてどの物語にも出て来なかった。女性はみんな奇麗で、美しくて、いつだって騎士に守られてた。
「おい君! 待ちなさいっ」
追いかけて来る。
いやだっ。誰にも見られたくない!
蹴り足を強めて踏み出すと、次の一歩が空を切った。突然視界が真っ暗になって、激しい衝撃と全身の痛み。
「あ…………」
何が起きたのかも分からない。仰向けになると上の方に光があって、誰かが覗き込んでるみたいだった。
君、大丈夫か――。
誰か人を呼んでくれ! 受験生が地下水路の工事穴に落ちた――。
それからだんだん騒がしくなって来て、けれど体は利かなくて。冷たい水を感じながら、私はそのまま意識を失ってしまったんだ――。
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