418話 風邪

「へーっくしょん!!  ああ、風邪を引いちまったなぁ」


 俺はベッドの中で盛大にくしゃみをした。

 昨日の模擬試合で、シルヴィに氷漬けにされてからの記憶がない。

 おそらく、気絶してしまったのだろう。


「へっくち! わたしもですぅ……ぐしゅん!」


 隣でもシルヴィがくしゃみをしている。

 俺は様々なジョブを高レベルまで育てており、シルヴィは上級ジョブの『氷魔導師』を育てている。

 寒さには人一倍強い。

 だがそんな俺たちでも、シルヴィの強力な上級氷魔法で氷漬けにされてしまえば、体調不良にはなってしまう。


「ご主人様ぁ……。ごめんなさいぃ……。わたしのせいでぇ」


 泣きそうな声でシルヴィが謝ってくる。


「気にするなって。お互いさまなんだからさ」


 お互いさまというか、どちらかと言えば俺の責任の方が大きいかな?

 全力を出すように指示したのは俺だし。


「ううっ……。うううっ……」


「泣くんじゃない。お前に泣かれると弱いんだよ、俺は」


「だってえ……。ご主人様に迷惑かけちゃったんですもん……。うううっ……」


 シルヴィは普段は結構強気だ。

 イケイケドンドンで猪突猛進な性格をしている。

 だがその半面、一度落ち込むとなかなか立ち直れないタイプだ。

 今もまた、ベッドの上で体育座りをしてメソメソしている。


「ほら、おいで」


「……はい」


 俺は布団をめくって、シルヴィを手招きした。

 彼女は素直に従ってくる。


(まあ、これで機嫌が戻るなら安いものだ)


 シルヴィは俺の恋人であり、奴隷であり、長い間苦楽をともにしてきたパーティメンバーだ。

 ……それにしても。


「お前、ちょっと汗臭いぞ?」


「ひどすぎますよっ!?」


 シルヴィが声を上げて抗議してくる。

 もちろん冗談である。


「まったくもう! さっき汗を拭いてもらったばかりなのに、ひどいですよぉ……」


 シルヴィはぷんすか怒っている。

 だが、その割には俺の隣で大人しく横になっているあたり、本気で怒ってはいないようだ。


「ごめんごめん。……ところで、俺も体を拭いてもらいたいな。シルヴィは誰に拭いてもらったんだ?」


「え? ああ、ご主人様が新しく雇われたあのメイドですね。名前は確か――」


「うふふ。あたくしを呼びましたか?」


 そう言って扉から入ってきたのは、20代後半のメイドの女性。

 ネリスだった。


「おお、ちょうどいい。俺の体を拭いてくれないか?」


「かしこまりました」


 ネリスは俺の服を脱がせていく。

 そして俺は彼女にされるがままになっていた。


(身の回りの世話をしてくれるメイドがいるというのは、便利だな)


 彼女はつい先日雇ったばかりのメイドだ。

 具体的には、俺が男爵位を授かってから1週間ほど経った頃だったか――

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