374話 毒蛇団
エルカの町、スラム街にて。
「アルヴィンの頭、厄介なことになりましたね」
「ああ、まったくだ」
ここは闇ギルド『毒蛇団』の拠点の一つ。
頭目である『毒霧』のアルヴィンの他、主だったメンバーが数人集まっていた。
「まさか、あの時の小僧どもが迷宮を攻略するとは……。想定外だ」
「ですね。例の奴隷……エメラダを奪還されたときに潰しておくべきでしたか」
当時のコウタはBランク冒険者であり、彼がパーティリーダーを務める『悠久の風』もBランクパーティだった。
下手に手を出せば損害が拡大する懸念があったため、彼らとしてもコウタと対立することは避けたのだ。
しかし今となっては、その判断は失敗だったかもしれない。
当時であれば、『毒蛇団』が壊滅寸前になるほどの被害を前提に、ギリギリ『悠久の風』を無力化できた可能性がある。
だが、今の『悠久の風』の戦闘能力は、当時のものを軽く凌駕しているだろう。
迷宮討伐者にはダンジョンコアの魔力が流れ込むため、ジョブレベルが一気に上がるのだ。
「リーダーのコウタとやらは、Aランクか。それにパーティランクもAに上がった上、このエルカの町において臨時の権力すら手に入れてしまった」
「ええ。半年間限定で、不逮捕特権、強制捜査権、被疑者逮捕権、量刑判断権などを手に入れてしまいました」
今や、コウタは戦闘能力だけでなく、権限という意味でもこの町における最強の存在となった。
国王直々の指令の元、エルカディア侯爵の協力を受け、ギルドマスターからも便宜を図られている。
強大な闇ギルドである『毒蛇団』とはいえ、おいそれと手が出せる状況ではなくなってしまった。
「しかも、野郎の側には『絶対零度』と『大地讃頌』がいます。その上、『剛力』や『雷脚』も」
「ああ。特に『絶対零度』はヤバいな。奴は主人であるコウタの敵対者を排除することに一切の躊躇がない。頭のネジが外れてやがる」
「そうですね。俺たちでも勝てるかどうか……」
「ちっ! これからが稼ぎ時だというのに……」
アルヴィンは舌打ちをする。
「少し前に仕入れた奴隷どもはどうします? さっさと売っ払っちまいますか?」
「バカか。今動けば、『悠久の風』の奴らに目を付けられるだろうが」
闇ギルド『毒蛇団』の脅威性は、頭目アルヴィンの戦闘能力もさることながら、ギルド全体としての隠密性にある。
普段は、ギリギリ合法行為と言い張れる程度の悪事で稼いでいる。
エメラダの奴隷堕ちの件でも、誘拐して強引に事を進めるのではなく、あくまで借金の取り立てという名目で動いた。
また、町の有力者たちの元にも協力者を潜り込ませており、取り締まりや捜査の情報を流してもらっている。
「しばらくは大人しくしておけ。奴隷どもの維持費がかさむようなら、低級奴隷から殺処分しても構わん」
「へい。ちなみに処分前に、俺たちで楽しんじゃってもいいですかい?」
下卑た笑いを浮かべる男。
「好きにしろ。ただし、くれぐれも騒ぎは起こすなよ。死体の処分も慎重に行なえ」
「へいっ!」
男は下品な表情のまま返事をしたのだった。
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