375話 どいつにする?

 『毒蛇団』の幹部の男は、頭目アルヴィンに報告を済ませた後、スラム街の裏路地を歩いていた。

 そして、とある建物に入る。

 そこは『毒蛇団』の拠点の1つ。

 先ほど訪れていた拠点はメンバー同士の連絡用であるが、こちらの拠点はまた違う役割を持つ。


「ちっ。厄介なことになってきやがったな……」


 男はそんなことを呟きつつ、奥の部屋に入った。


「こんな日は、楽しませてもらわねえとやってられねえよなぁ……」


 その部屋の中には、多数の少女たちがいた。

 みな薄汚れていて、中には裸同然の姿の少女もいる。


「ひっ!」


「いやぁ……」


「…………」


 悲鳴を上げる者、怯える者、無関心な者。

 少女たちの反応は様々だ。

 その光景を見て、幹部の男の顔に嗜虐的な笑みが浮かぶ。


「リーダー、お早いお帰りで」


「それで、頭目はなんと言っていましたか?」


「予想通りだ。活動をしばらく控えめにしろだとさ」


「そうですか……。残念ですね」


「まあ、仕方ないでしょう。あの『悠久の風』のパーティランクがAになった以上、下手に手を出せません」


 頭目の指示に逆らうわけにはいかない。

 『悠久の風』の脅威度も理解している。

 だがそれでも、当面の間は好きに動けないとこが確定し、男たちは暗い表情になる。


「そう不満がるな。代わりと言っては何だが、低級奴隷の処分許可が出た。ただ生かしておくだけでも金はかかるからな。俺たちで適当に楽しんだ後、殺処分しておこうぜ」


 奴隷の価値はピンキリだ。

 それこそ、邸宅や高級装備、魔道具と同程度の価値を持つ高級奴隷から、数か月程度の食費や維持費だけで足が出てしまう低級奴隷もいる。

 今回の場合は、可能な限り摘発のリスクを減らすためにも、価値の低い奴隷は殺処分しておいた方がいいという事情もある。


「おお! それはいいですね」


「ええ。このところ好きにできる奴隷が少なく、鬱憤が溜まっていましたからね」


 彼らは闇ギルド『毒蛇団』のメンバーであり無法者集団だが、決して無秩序な存在ではない。

 むしろ、その構成員たちは、ある程度のルールの下に行動している。

 商品価値を損なわないようにするため、奴隷への暴行はある程度自粛していた。

 それが今回、頭目のお墨付きで自由にできるようになったのだ。

 彼らの気分が高揚するのも当然だろう。


「くっくっく。さっそく楽しませてもらうか。おい、お前たち、どいつにする?」


「そうですねぇ……」


「実は前から狙っていた奴がいるんでさぁ」


 男たちが舌なめずりをしながら少女たちを見回す。

 この時点で、コウタたち『悠久の風』の準備はまだまだ整っていない。

 哀れな少女たちの運命は、ここに定まってしまったのだった。

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