363話 俺には通用しない

「気に入った。気に入ったぞ、コウタ殿。貴公に爵位を与えようと思うが、どうかな?」


「……」


 なんですって?


「はっ。ありがたく頂戴いたします」


 俺は平然と答える。

 しかし内心では動揺しまくりだ。

 迷宮の討伐は、平民から貴族に成り上がってもおかしくないほどの偉業だ。

 しかしそれでも、普通はもう少し時間が掛かるだろう。

 まさかこんなにスピード感を持って叙爵を打診されるとは思わなかった。


「うむ。貴公のさらなる活躍に期待しておる……と言いたいところだが、その前に……」


「その前に? ……むっ!!」


 俺は咄嵯に横に飛び退いた。

 直後、俺のいた場所に雷が落ちてきた。


 バチィッ!!

 と音が響き渡る。

 俺以外の誰もが反応できていない。


 この雷撃が直撃すれば、人間など消し炭になっていたことだろう。

 しかし、俺は無傷で立っている。

 俺の反応速度をもってすれば、この程度は造作もないことだ。


「ご主人様!」


 シルヴィが叫ぶ。


「大丈夫だよ」


 俺は手を振った。


「うむ。今のを避けるとは、さすがは一流冒険者だ。有象無象に暗殺されてしまうようなことはないだろう」


 ウルゴ陛下がそう言う。

 今の攻撃は彼からのものだ。

 確かに、叙爵したばかりの新貴族が即座に暗殺でもされてしまえば、社会に混乱が生じる。

 迷宮の討伐という功績だけでなく、実際にその目で実力を見極めるのは大切なことなのだろう。


「はっ。恐れ入ります」


 いきなり攻撃されて、正直なところ少しムカついているが。

 水に流してやる。


「では、次だ」


 ウルゴ陛下がそう言った瞬間、俺の首筋に短剣が突き付けられた。

 俺はそれを指先で摘まんでいる。


「な、なに!?」


 剣の持ち主が驚いている。

 彼女は女騎士ナディア。

 ウルゴ陛下と事前に打ち合わせしていたのだろう。

 俺を奇襲して、実力を確かめるための作戦だ。


「俺は迷宮を踏破したんだ。迷宮では常に危険が付き纏う。この程度の不意打ち、俺には通用しない」


 俺はそう言って、彼女を睨んだ。


「ぐっ」


 ナディアは悔しそうにしている。


「くっくっ。さすがはコウタ殿。これでもダメか」


「陛下。申し訳ありません」


「よい。コウタ殿の奇襲耐性は、十分に分かった。悪くないな」


 ウルゴ陛下は満足そうだ。

 これで俺の資質への疑いは晴れたということだろう。


「さて、改めて聞こう。コウタ殿。貴公に爵位を与える。爵位は男爵だ。受け取ってくれるな?」


「ありがたく頂戴致します」


 俺は即答する。

 男爵と言えば、領地を持つことが許される貴族階級だ。

 てっきり、一代限りの騎士爵を授かることになると思っていたが……。

 少しだけ予想外だ。

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