364話 エウロス
俺はウルゴ陛下から男爵位を授かることになった。
「して、家名は何とする? 貴族となるからには、家名が必要だ。求める家名を申してみよ」
「はっ。私が求める家名は……『エウロス』です」
「ほう。『風の神』の名を冠するか」
ウルゴ陛下がそう言う。
彼が指摘した通り、エウロスは風の神の名前だ。
MSCにおいても存在していた。
元ネタはギリシャ神話だろう。
「はっ。私は冒険者としてまだまだ名声を轟かせるつもりです。ですので、冒険者パーティ名である『悠久の風』にちなんだ家名をいただきたく思ったのです」
「ふむ……。なるほど。確かに、その方が良さそうであるな。冒険者は風のように自由な存在。コウタ殿はまさにそれであるしな」
「はい」
「よし。ならばそのようにしよう。ナディア、儀礼用の短剣を」
「はっ」
ウルゴ陛下が命じると、ナディアが懐中時計くらいの大きさの箱を取り出した。
その中に収められていた一本の鞘付きのナイフを手に取る。
そして、恭しく一礼してから、俺の前に歩み寄った。
「こちらを持たれよ。爵位を授かる際の儀礼は知っておられるか?」
「ああ、もちろんだ」
俺は短く答え、ナイフを受け取った。
こんなこともあろうかと、ローズの父親からある程度は聞いておいた。
MSCにおける儀礼と大差ない。
それなら、ゲームの中でやったことがある。
「我が剣、我が誇り、我が魂は、バルドゥール王国と共にある! エウロスの名に祝福を!」
俺はそう叫んで、ナイフを空にかざして見せた。
「貴公の剣は王国と共にあることを認める! エウロスの名に祝福あれ!」
ウルゴ陛下が宣言する。
「コウタ・エウロス男爵よ! 貴公の新たなる門出に幸多きことを祈る!!」
「「「「おおおおぉっ!!」」」
民衆たちが拍手を送る。
「さすがはご主人様です!」
「コウタならこんな日もくるって思ってたよ」
「すごいのです」
「へへっ。それでこそ、あたいの見込んだ男だ」
シルヴィ、ユヅキ、ミナ、リンがそう言う。
「……コウタちゃんは規格外だね……」
「アイゼンシュタイン子爵家を継ぐまでもなく、自力で爵位を授かってしまわれるとは……」
「とんでもねえな! コウタ親分は!」
「……えっと。すごいことだと思います」
「うにゃ~……。頭が付いていかないのにゃあ……」
ティータ、ローズ、グレイス、エメラダ、セリアがそう言う。
反応はそれぞれ異なるが、概ね喜んでくれていると言っていいだろう。
こうして、俺は晴れて貴族の身分を手に入れたのだった。
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