362話 バルドゥール王国第17代国王

 広場に到着すると、そこは大勢の人々で賑わっていた。

 俺たちが姿を見せると、ざわめきが起こる。


「おい、あれが例の『悠久の風』のメンバーなのか?」


「ああ。間違いないぜ。ほら、あの黒髪の男だろ?」


「なんて禍々しい魔力だ。これが迷宮踏破者の力か」


「いや、それよりも、一緒にいる少女たちの方がヤバいだろ」


「とんでもない美少女ね」


「噂じゃ、少しでもスキを見せた女は食われちまうらしいぜ。きっとあの子たちも……」


「年頃の女は近づくな。すぐにでも孕まされるぞ」


「うぉおお! 俺もあんな女の子と一緒に冒険してえ!」


 そんな声が聞こえる。

 一部でなんか変な勘違いをされているような気がしないでもない。

 まあいいか……。

 俺はそう思ってスルーすることにした。


 俺たちが案内されたのは広場の中央部。

 普段は一般に開放されている場所だ。

 しかし、今は厳粛な雰囲気が漂っている。

 赤い絨毯が敷かれており、その先に玉座があった。

 そこに一人の初老の男性が座っている。

 おそらく彼が国王陛下なのだろう。


「ナディア・エルカインド。参りましてございます」


 俺を先導していた女騎士ナディアが一歩引き、膝をつく。

 それに合わせて俺たちも跪く。

 俺が先頭、他の悠久の風の面々が続き、ナディアがその後ろに控えている形だ。

 群衆たちは息を呑み、遠巻きに様子を見ている。


「皆の者。面を上げよ」


 国王陛下と思われる人物がそう言った。


「はっ」


 俺たちは顔を上げる。


「其方がコウタ殿であるな。余はバルドゥール王国第17代国王、ウルゴ・バルドゥールである。此度のエルカ迷宮討伐、大義であった」


 やはり、俺が迷宮を討伐した件の話で間違いないようだ。

 情報が伝わるの、速くね?


 俺たちはダンジョンコアを破壊した後に、隠し部屋の金銀財宝を回収した上で、一晩休んだ。

 転移魔法を持たない俺たちは、その後エルカ迷宮とエルカ草原を徒歩で移動した。

 転移魔法の使い手がいれば楽だったのだが、ないものはないのだ。

 仕方がない。


 今の時刻は昼過ぎぐらい。

 ダンジョンコアを破壊して、1日が経つか経たないかといったぐらいだ。

 どういう経路で情報が伝わっていったのだろうか。


 それに、情報が伝わるだけならまだしも、国王がこれほど迅速に動くとは。

 何らかの形で社会的名声は高まると思っていたが……。

 これはさすがに予想外だ。


「はっ。迷宮の討伐は、冒険者の務めであります。それが果たせたことは、大変光栄に存じ上げます」


「ふむ。謙虚なのだな。迷宮踏破者ともなれば、時に一国を揺るがすほどの戦闘能力を持つものだが……」


「恐れながら陛下。私はまだまだ修行中の身。迷宮を踏破できたのは、仲間たちの助力あってのことです」


「ほう。それほどの実力を持ちながらも、更なる向上心を持っていると申すか。ますます気に入った」


 ウルゴ陛下が満足げな笑みを浮かべる。

 どうやら気に入ってくれたようだ。

 第一関門は突破といったところか。

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