273話 エメラダとの再会

 俺は奴隷商館の奥に足を踏み入れた。


「ようこそいらっしゃいました」


「……」


 出迎えたのは40代くらいの男だ。

 物腰は丁寧だが、どこか怪しい表情をしている。


「私が店長です。何かご用でしょうか?」


「俺はコウタという者だ。ここ1か月以内に仕入れた新鮮な奴隷が欲しい」


 単刀直入に言うなら、『エメラダという名前の奴隷がいないか確認したい』だ。

 しかしその場合は、俺がエメラダに固執していることがバレてしまう。

 ここはそれとなく探ることにした。


「それはつまり、買っていただけると?」


「ああ。……もちろん、俺の目にかなうような奴がいればの話だけどな」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 男は奥の部屋に入っていった。

 しばらくすると、一人の女性を連れて戻ってくる。

 年齢は10代後半。

 顔立ちは整っており、スタイルもいい。

 美人と言って差し支えない容姿だ。


「こちらが今朝方仕入れた商品になります。名前はエメラダ。ジョブは『調合士』でございます」


「ほう……。なかなかいいじゃないか」


 ビンゴだ。

 やはり、エメラダはここに奴隷として売られてしまっていたようだ。

 彼女はうつむいていたが、ふと視線を上げた。


「あっ……」


 彼女が驚きの声を漏らす。

 が、すかさず店長がそれを遮った。


「許可なく口を開くな!」


 パシンッ!


「あうっ……」


 尻を小さなムチで叩かれたエメラダはその場に倒れ込む。


「おいおい……。客の前でそういうことをするのは感心しないぞ?」


「これは失礼いたしました。なにせまだ調教が済んでおりませんもので」


「なるほどな。……ちなみにいくらだ?」


「そうですな。こやつは処女ですし、『調合士』のジョブは少し珍しい。”これぐらい”は……」


 男は指を立てる。

 なるほど……。

 かなりの金額だな。

 白狼族のシルヴィに引けを取らない。

 俺たち『悠久の風』のパーティ資金は潤沢なので、払うことはできる。

 だが、俺個人の資金だけでは足りないぐらいの金額だ。


(さて、どうするか……)


 選択肢は4つ考えられる。


 1つは、俺の戦闘能力を活かして強奪することだ。

 しかし、その場合は俺はお尋ね者になってしまう可能性が高い。

 路地裏でチンピラをボコボコにしたぐらいであれば、ただのケンカとして見逃されることも多い。

 だが、奴隷商館から高価な奴隷を強奪すれば、さすがに衛兵が飛んでくるだろう。


 2つ目は、とりあえず出直すことだ。

 『悠久の風』として堅実に行くなら、これが有力である。

 きちんとシルヴィやユヅキと相談して方針を決めるべきだろう。

 しかしこの場合は、モタモタしている間にエメラダが他の者に買われたり、他の町に移送されてしまうリスクがある。


 3つ目の案は、今回提示された値段で購入することだ。

 これなら、すぐにでもエメラダを買うことができる。

 しかしその場合、ミナやリンに無断でパーティ資金に手を付けることになる。

 彼女たちからの信頼を失ってしまうかもしれない。

 あと少しだけ安ければ、俺個人の資金で購入が可能なのだが……。


 そういうわけで、4つ目の案が最も現実的な案となるだろう。

 その案とは……。

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