272話 vs奴隷商館の警備兵

 奴隷商館のすぐ側にやって来た。

 建物内に入ろうとするが、それを遮るように男が2人現れた。

 先ほどのチンピラたちのような男ではなく、きちんとした服を着ている。


「お客様ですか?」


「ああ、そうだが?」


「申し訳ありません。当店は現在、関係者以外立入り禁止となっております」


 2人とも腰には剣を携えている。

 おそらくは警備兵といったところだろう。


「ふむ? 奴隷商館が客を締め出すなんて、よほど立て込んでいるようだな」


「はい。詳しいことをお伝えすることはできませんが、店長からの指示なのです」


「そうか……。だが、こちらとしてもこのまま引き下がることはできない。少し急ぎの用事でね。そこを通してくれ」


「そう言われましても……。あっ、ちょっと!!」


 俺は警備兵の制止を振り切り、建物内に入る。

 そのままずんずんと進んで行く。

 だが……。


「まあ、こうなるよなぁ」


 正面にガタイのいい警備兵が3人立ちはだかった。

 彼らはいずれも屈強な体つきをしており、ただならぬ気配を放っている。

 さらに、俺の後方には先ほどまで話していた警備兵が2人。

 強引に中へ侵入した俺を警戒している様子だ。


「お客様。立ち入りを禁止している店内に入られたということは、それ相応の覚悟があるということでよろしいですね?」


「いつまでも下手に出ていると思われては困ります。こちらも仕事。実力を行使させていただきます」


 言葉遣いは丁寧だが、その雰囲気はどんどん剣呑になってきている。

 威勢だけのチンピラよりもよほど強そうだ。


「実力行使? ずいぶんとでかい口を聞くな」


 俺はストレージから金貨を取り出す。

 そして、それを勢いよく指で弾く。


「ぷごっ!?」


 1人の男の顔面に直撃する。

 突然のことに男は一瞬呆気に取られていた。

 その間に、俺は残りの他の2人に距離を詰め、腹パンを叩き込んだ。


「ぐぼぉ……!!」


「がは……!!」


「くっ……!!」


「この……!!」


 残った最後の2人は即座に俺に斬りかかってきた。


「おっと」


 俺は後ろにステップし、回避する。


「そんな……バカな……」


「どうした? もう終わりか?」


「こいつ、強いぞ……!!」


 連中がいよいよ警戒心を最大にまで高める。


「まあそう慌てるな。俺は客だ。熱心な警備に敬意を評して、少しだけサービスをしてやろうというのだ」


「サービス? 何の話です?」


 最初に金貨を顔面に受けて悶絶していた男が復活し、そう言う。


「その金貨だよ。5人で分け合うといい」


「金貨? あ……」


 男たちが沈黙する。

 職務の遂行義務。

 金銭への欲望。

 俺の想定外の強さ。

 警備兵にポンと金貨を渡せる程度の金払いの良さ。

 いろいろな事情や感情が混ざり合っているのだろう。

 そして、1つの結論に達したようだ。


「……ありがたく頂戴します。店長を呼んできましょう。ただし、あくまでお客様として対応するのみです。当商店から奴隷を購入される場合は、店長との交渉の上で正規の代金を支払っていただくことになりますので」


「ああ、わかっているさ」


 警備兵のリーダーはそのまま奥へと引っ込んでいった。

 数分後。

 再び男が戻ってきて、俺は奥へと案内されたのだった。

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