271話 奴隷商館

 路地裏で絡んできたチンピラたちを撃破した。

 おそらくは闇ギルド『毒蛇団』のメンバーだろうが、情報を吐こうとしない。

 後処理を衛兵に任せて、また別の情報源を探す必要がある。

 だが、そんな俺を遠巻きに見ている少女がいた。


「……君は?」


「……あのね、エメラダお姉ちゃんのこと知ってる」


「本当か?」


「うん……」


「教えてくれるかい?」


「えっと……。オジサンは悪い人じゃないよね?」


「ああ、そうだ」


 俺は優しく微笑む。

 おじさんではなくお兄さんなのだが、今は置いておこう。


「わかった。僕、案内するよ」


 そう言うと、女の子は走り出した。

 チンピラのことはとりあえず放置でいいか。

 あの程度の連中、また何かしてきても余裕で対処できるからな。

 俺は少女の後を追う。


「ここだよ」


 少女はとある建物を指さした。


「ここは……奴隷商館か」


 俺がシルヴィを購入したルモンドの奴隷商館とはまた違った雰囲気の建物だった。

 建物自体は大きいものの、どこか陰鬱な雰囲気を感じる。

 おそらくだが、違法奴隷がいるからではなかろうか。


「ここにエメラダがいるのか?」


「たぶん……」


「たぶんか……」


「ここに連れて来られたのは知ってる。さっきの怖いオジサンたちと一緒にいるところを見たんだ」


「なるほど……」


 どうやらこの子も、これ以上の情報は知らないようだ。

 しかし、エメラダがここにいる可能性がある以上、ここで引くわけにはいかない。


「エメラダお姉ちゃんは、お金のない僕たちにもポーションを使ってくれたんだ。だから……」


「わかった。必ず助けてやるさ」


 エメラダの工房が経営難だったのは、無償の施しをしていたからなのか。

 確かに、受付嬢のセリアもそのようなことを言っていた気がする。

 殊勝なことだが、それで借金がかさんで『毒蛇団』に目をつけられ、奴隷に堕とされてしまったのかもしれない。


 エメラダはやや珍しい『調合士』のジョブを持つ。

 また、年齢も若く、外見もいい。

 奴隷としてはなかなかの価値を持つだろう。


「案内ありがとう。気をつけて帰ってくれ」


 ここの場所を教えた以上、彼女の身も少し危険か?

 とはいえ、さっきの男たちは俺がきっちりと恐怖を植え付けておいたからな。

 おそらくは大丈夫だろう。

 一応の対処として……。


『みんな、聞こえるか?』


 俺は『パーティメンバー設定』の恩恵の1つである『念話』を発動させる。

 パーティ内で、遠隔の会話ができるというものだ。

 多少の制約はあるが、概ね現代日本の携帯電話と同じような使い方ができる。


『ご主人様! 今、どちらに?』


『なんだか大変なことになっているみたいだね』


 シルヴィとユヅキが応答する。


『ああ。俺は今、とある奴隷商館の前にいる。どうやらエメラダは、不法に奴隷に堕とされた可能性があるようだ』


 俺はこれまでの経緯をざっくりと説明する。


『乗り込むのか? コウタ親分。なら、俺もそっちに……』


『いや、ここは俺1人で十分だ。情報提供者の少女がいるから、保護してやってくれないか。そして、ここがハズレだったときに備えて新たな情報も集めておいてほしい』


『了解だぜ! 任せときな!!』


 シルヴィ、ユヅキ、グレイスあたりが対応に当たってくれるそうだ。

 これで安心だな。


「いいかい? 白狼族のお姉ちゃんや、茶犬族のお姉ちゃんが来てくれるからね。できればいっしょにいるんだよ」


「わかった!」


 俺は女の子と別れる。

 そして、意を決して奴隷商館の入口に向かい始めたのだった。

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