266話 エメラダの工房へ

 1週間ほどが経過した。


「よし。今日の薬草採取はこれぐらいにしておこう」


 俺たち『悠久の風』は、冒険者ギルドの依頼を受注して、森に来ていた。

 エメラダから直に受けたりはしない。

 冒険者ギルドの規約に引っかかるわけではないものの、マナー違反だ。

 ギルド側の心象を害して、ランクアップに支障が出る可能性がある。

 薬草の採取程度であれば仲介手数料もさほど高くないはずだし、ここはきちんとギルドを通して受注するのが正解だろう。


「ふうー。やっと終わりましたね!」


「薬草採取も慣れてきたよ」


 シルヴィとユヅキは、ほっとした様子で言う。


「そうだな。最初は少し苦労したが、慣れてきたら効率も上がったな」


「最初に比べると、だいぶ楽になったぜ」


 グレイスが嬉しそうにそう言う。


「少し早いが、街に戻るか。その後はどうする?」


「ボクは鍛冶屋に顔を出しておくのです」


「あたいは料亭ハーゼに行くぜ。ルンのやつに料理を教えてやるんだ」


「わたくしは少し疲れました。宿屋で休んでいてもよろしいでしょうか?」


 ミナ、リン、ローズがそう言う。


「わかった。じゃあ、街へ戻ったら一度解散するか」


 俺たちは街に戻る。

 そして、それぞれの行動を開始した。

 ティータはローズに付いていった。


「ご主人様。冒険者ギルドへの報告はわたしにお任せください!」


「僕も付き合うよ」


「そうか。じゃあお願いしようかな?」


 パーティリーダーは俺なので、できれば俺が行くべきだ。

 とはいえ、たかが薬草採取の依頼の報告。

 それも、ここ1週間で何度か受けている依頼だ。

 別に俺が行く必要もない。

 彼女たちに頼むことにした。


「では行ってまいります!」


「行ってくるね」


「ああ、気をつけてな」


 俺はシルヴィとユヅキを見送る。


「さて、俺たちはどうしようか? グレイス」


「特にやることはねえな。コウタ親分は何かやりたいことがあるのか?」


「そうだなあ。……エメラダの工房に顔を出してみるか」


「おっ。いいな! 俺もついてくぜ」


「ありがとう。助かる」


「礼を言うなら、俺の方だろ。いつも世話になってるからな」


 グレイスは照れたように笑う。


「じゃあ行こうか」


「おう」


 俺はグレイスと連れ立って、エメラダの工房へと向かった。

 新たに依頼していたポーションはできているかな?

 あそこのポーションは品質がいい。

 その分料金も高いが、『悠久の風』のパーティ資金は潤沢だ。

 多めに買って、俺のストレージに保管しておくのがいいだろう。

 ローズは治療魔法を使えるが、彼女1人だけでは限界がある。

 ポーションを使っての治療と合わせれば、大きなケガにも対応できるはずだ。


「着いたぜ。……ん? コウタ親分、これは……」


「ふむ……?」


 グレイスの言葉を受けて前方を見る。

 そこには、やや想定外の光景があったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る