265話 エメラダの借金

 エメラダの工房にやって来たところ、彼女が何やらチンピラに絡まれていた。

 詳しい事情は知らないが、俺はとりあえず男を撃破して追い払ってやった。

 そして、涙目のエメラダに手を差し伸べる。


「大丈夫か?」


「……はい。助けてくれてありがとうございます」


 彼女が俺の手を取り、立ち上がる。

 どうにか落ち着きつつあるようだ。


「気にするな。それより、なぜあいつらに絡まれていたんだ?」


「えっと。実は……」


 エメラダの話によると、彼女の工房の資金繰りが苦しいらしく、金を借りているらしい。

 しかし、返済期限を過ぎてもまだ返せない状況が続いているようだ。


「なるほど。それで、あのチンピラ共が文句を言いに来たわけだな」


「はい。言い方と態度は乱暴でしたが、言っている内容は正当なものなのです……」


「そうだったか。俺も、借金は良くないと思うぞ」


 まあ、シルヴィを購入した際には、分割払いという名の借金を負ったけどな。

 頑張って支払いを終えたので、今の俺に借金はない。


「……そうですね。わかってはいるんですけど」


 エメラダは肩を落とす。


「まあ事情は何となくわかるよ。工房の運営は大変なのだろう。だが、いつまでもこのままという訳にもいかないだろ?」


「それはそうなんですが」


「……まあいい。とりあえず、約束していたポーションを買い取らせてもらうぞ」


 俺はそう言って、エメラダからポーションを受け取る。


「ほら、これが代金だ」


「……えっと。額を間違えていませんか? この金貨の量、かなり多いと思うのですが」


「いや、これで正しい」


「……でも。割引券の分が……」


「割引券は、また今度使わせてもらうさ。今はエメラダにお金が必要だろ?」


「えっと……。それは確かにそうですが……。本当によろしいのですか?」


「もちろんだとも。それにしても、ずいぶんと効果の高いポーションじゃないか」


 俺はポーションを見つめる。

 適切に薬草が調合されている。

 高品質のポーションであることは間違いなかった。


「はい。あたしも、頑張ったんですよ」


 エメラダが笑顔を見せる。


「そうか。エメラダが頑張った証拠が、このポーションなんだろうな。立派なことだ」


「そんなことないですよ。まだまだ未熟です」


 エメラダは謙遜するが、その表情からは自信が感じられた。


「これからもこの調子で頑張れよ。応援してるぜ」


「はい。コウタさんに認めてもらえるように、もっともっと腕を上げますね!」


 エメラダがそう意気込む

 彼女の瞳には決意の炎が灯っていたのだった。

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