264話 美少女の涙は見過ごせない

 エメラダの知り合ってから1週間ほどが経過した。

 あれから、定期的に薬草採取の依頼を受注している。

 今日も、採取を終えて冒険者ギルドに報告を済ませたところだ。


「コウタさん。今日はエメラダちゃんの工房に行かれる予定でしたかにゃ?」


 冒険者ギルドの受付嬢セリアが訊ねてくる。


「ああ。もうすぐ約束の時間だからな」


「彼女のこと、できれば贔屓にしてほしいですにゃ」


 セリアがそんなことを言う。


「どういう意味だ?」


「エメラダちゃんは、腕は確かなのですにゃ。でも、仕入れや販売ルートの問題でなかなか商売がうまくいかないみたいなんですにゃ。あと、慈善活動もしているらしいですにゃ」


「なるほど。腕のいい調合士が、工房の経営に困っているということか」


「そういうことですにゃ。ギルドとしてもあれこれと便宜を図ってあげているのですが、公平性の問題があるので限界があるのですにゃ」


「わかった。できるだけ配慮しよう」


「ありがとうございますにゃ!」


 俺はセリアのお礼を聞きながら、冒険者ギルドを出る。

 そして、『エメラダの工房』に向かった。


 工房の近くまでやってきた。

 店の前が騒がしい。

 何かあったのだろうか。


「おい! 舐めてんじゃねえぞ! クソガキ!」


「うぅ……。ごめんなさい」


 中年の男が大きな声で怒鳴り散らしている。

 一方のエメラダは涙目になって謝っていた。


「ふん。言葉じゃなくて金を寄越せと言っているんだよ!」


 男はエメラダの胸ぐらを掴む。


「ひぃっ」


 エメラダは半泣き状態で怯えている。

 美少女の涙は見過ごせないな。


「おいっ。何をやってるんだ?」


 俺は男に声を掛けた。


「あん? なんだてめえ?」


「俺は通りすがりの冒険者だ。そんなことより、その子が嫌がっているように見えるが?」


「はぁ? なんだとこの野郎!」


 男はエメラダ解放したかと思うと、俺に向かって殴りかかってきた。

 だが、遅い。

 俺は拳を受け止めた。


「な、なんだと!?」


「遅過ぎる……。蚊が止まるかと思ったぞ」


「ふざけんな! この野郎!」


 さらに殴ろうとする男の手を、俺は掴む。


「くそがああああっ!!」


 力任せに振り払おうとするが、びくりともしない。

 そこそこの力はあるようだが、今の俺の敵ではないな。


「悪いが、俺も暇じゃないんでな。これ以上は付き合ってられない」


 俺は男の手を握る力を強める。


「ぐっ……」


「さっさと帰れ。それとも痛い目にあいたいのか?」


「ちっ。覚えていやがれ!」


 男は捨て台詞を吐き、去っていった。

 後に残されたのは、俺たち『悠久の風』と、エメラダ。

 涙目の彼女のケアをしておかないとな。

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