267話 行方不明のエメラダ

 俺とグレイスはエメラダの工房にやって来た。

 だが、店は閉ざされていた。

 窓から見える店内は、荒れている。

 そして、ドアには『しばらく休業します』という張り紙があった。


「閉まってるな」


「ああ。中にも人の気配がねえ。どうなってんだ?」


 俺とグレイス。

 2人で首をひねる。

 ……そういえば、ここ昨日からエメラダを見かけていない。

 一昨日会った時、彼女はかなり元気がなかったと思う。

 あの時は、用事を済ませてすぐに別れてしまったから、その後何が起きたかわからない。

 だが、今はエメラダの身に何かが起きて、店を閉めたと考えるべきだろう。


「困ったな……。まさかこんなことになるとは」


「……まあ、仕方ないんじゃねぇか? 冒険者ギルドへの薬草依頼はまだ出ていたんだし、ずっと閉じているわけじゃねえだろうよ」


「確かにそうかもしれないが。何も連絡がないのは少し心配だ」


 俺たちは裏口を探したり、開いている窓がないか探したりしてみたが、いずれも閉まっていた。

 窓を割れば中には入れるだろう。

 だが、エメラダに無断でそんなことをするわけにはいかない。

 店内の荒れた様子を見た感じ、ただ事ではない雰囲気を感じるが……。

 どうするべきか。

 俺が頭を悩ませていたとき、背後から声をかけられた。


「ご主人様! こちらにおられましたか!」


「おお、シルヴィ。どうしてここに?」


「冒険者ギルドで薬草採取の報告を済ませたところ、気になる情報がありまして……。ご主人様に報告をしようと思ったのです。ユヅキさんには宿屋の方に向かっていただきました」


「なるほど。それで?」


「はい。エメラダさんから出されていた薬草採取の依頼が途切れました。今回分の報酬はいただけましたが、それで最後だったようです」


 エメラダのジョブは『調合士』だと聞いている。

 この工房で継続的にポーションなどを売っている。

 薬草の在庫が不足気味だと言っていた。

 今後も工房の営業を続けていくつもりなら、薬草採取の依頼は継続的に出されているはずだ。


「閉店しているのと何か関係がありそうだな……」


「受付嬢のセリアさんに聞いてみましたが、言葉を濁されてしまいました。エメラダさんが継続的に困窮していたのは間違いないはずですが……」


「そうか……。わかった。ひとまず、情報収集をしてみるか。シルヴィとグレイスは2人で協力してくれないか?」


「わかりました!」


「もちろんだぜ!」


 俺の提案に、2人は快諾してくれた。


「じゃあ、俺は俺で動く。あまり危険な場所には行かないようにな」


 そうして、俺たちは二手に別れたのだった。

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