263話 『調合士』エメラダ

 翌日。

 俺は仲間を連れて、町の郊外にあるという店に向かった。

 そこは小さな建物だったが、看板にはしっかりと『エメラダの工房』と書かれている。


「ここが調合屋のようだな」


 扉を開けると、中から甘い匂いが漂ってきた。


「……えっと。いらっしゃいませ」


 カウンターの奥にいた少女が、遠慮がちに声をかけてきた。


「こんにちは。君がこの店の店主のエメラダか?」


「あ、はい。あたしが『エメラダの工房』の店長のエメラダです」


「そうか。じゃあ、君があの有名な調合士なんだな」


 エメラダという名前は、以前から何度か聞いたことがあった。


「……えっと。有名かどうかわかりませんが、一応冒険者ギルドにはポーションを卸しています。ジョブも『調合士』です」


 やはり間違いない。

 この歳でギルド御用達になるとは、かなりの実力だ。


「俺の名はコウタ。よろしく頼む」


 エメラダは緊張しているようだ。


「さっそくだが、俺たちは君に用があって来たんだ」


「はい。なんでしょう?」


「実は、君が作ったポーションを買いたいと思っていてな」


「……えっと。あたしのポーションは結構なお値段をいただいていますけど……」


「冒険者ギルド経由で割引券をもらったのだが。これは使えるのか?」


「……あっ。それでは、あなたたちが薬草採取を受けてくださっていた『悠久の風』の方々なのですね」


「そうだ。先ほども言ったが、俺はコウタ。『悠久の風』のリーダーを務めているBランク冒険者にして、ドラゴンスレイヤーさ」


「す、すごいです。本物の英雄さんとお会いできるなんて感激です!」


 エメラダは目を輝かせる。


「いやいや、エメラダだって、その歳でギルド御用達の調合士だろ? 大したものだよ」


「……いえ。あたしはまだまだ未熟者です。この店も両親から継いだだけですし、いろいろと行き詰まっていまして……」


「行き詰まっている?」


「……えっと。やっぱり忘れてください。つい話し過ぎました」


 エメラダがそう言う。


「ふむ。気になる言い方をするじゃないか」


「……すみません。本当になんでもないので」


「まあいい。ところで、君の作ったポーションはいつ頃から購入できそうなんだ?」


「……えっと。昨日薬草を納入していただけたので、既に作業には取り掛かっています。1週間後ぐらいまでには、用意できると思います」


「なるほど。それは助かるな。よろしく頼むぞ」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 エメラダは頭を下げた。

 こうして、俺たち『悠久の風』は『調合士』エメラダと知り合ったのだった。

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