230話 黄昏の月

 カイゼルたち黒狼団との一件が片付いたかと思ったら、謎の土魔法使いが現れた。

 彼のゴーレムが俺たち『悠久の風』を襲う。

 俺はみんなの協力のもと、ゴーレムが手薄になったスキを突いて術者へ一気に距離を詰める。


「うおおおっ! くらえっ!!」


 そして、全力で剣を振るった。

 ザシュッ!!!


「ぐわぁっ!!」


 彼は血を流しながら倒れ込んだ。

 ……ように見えたが。


「なんてね。しかし、ずいぶんと強いですね。君たちのようなパーティがアルフヘイムに滞在中だったとは、黒狼団の連中も運がありません」


 なんと、男は無傷であった。

 先ほど俺が斬ったのは土でできたデコイだったようだ。

 悲鳴まで付けて、芸が細かいな。


「お前は何者だ?」


「さて。答える必要があるでしょうか?」


「ふざけるんじゃねえ!」


 俺はもう一度攻撃を仕掛けようとした。

 だが、それを阻むように地面が盛り上がった。


「なんだと!?」


 俺の足元の地面から、巨大な石槍が突き出してきたのだ。


「ご主人様っ!!」


 シルヴィの叫び声が聞こえてくる。

 俺は咄嵯に飛び退いた。

 ズドォンッ!!!


 直後、俺がいた場所に石の槍が迫り出していた。

 俺は冷や汗を流す。

 危なかった……。


「くそ……。ゴーレムだけじゃなくて、こんな隠し玉まで持っているのかよ」


 俺はぼやく。

 どうやら相手はかなりの手練れらしいな……。


「今のをかわしますか。やはり、あなたたちは只者ではないですね」


 男が感心したような声を出した。


「さて、ここからが本番ですよ」


「ああ、わかっている」


 俺は答える。

 何者かは分からないが、こいつは絶対に逃せない敵だ。

 俺たちは互いに全力を出す構えを取る。

 しかし……。


「そこまでだ。ザード」


 突如として、別の人物の声が響いた。


「……っ!?」


 俺は驚き、声がした方へ視線を向ける。

 そこには、白いローブに身を包んだ女性が立っていた。


「いつまで遊んでいるつもりだ?」


 その女性はそう言って、俺と戦っていた男の方へ歩いていく。


「いやいや、すみませんね。つい興が乗ってしまって。久しぶりに遊びがいのある相手でしたから」


 ザードと呼ばれた男がそう答えた。


「遊びだと? どういう意味だ?」


 俺は尋ねる。


「言葉通りの意味です。あなたたちの実力はなかなかのものですが、それでも私たち『黄昏の月』には及びません」


「……なるほど」


 俺は納得した。

 つまり、俺たち『悠久の風』よりも強い集団がこの世界にはいるということだ。


 まあ、俺たちはまだBランクパーティだ。

 一般的に見て強いのは間違いないが、世界規模で見て最高レベルとは言い難い。

 冒険者内で比較しても、AランクやSランクが存在する。

 冒険者以外では、各国の騎士団や魔導士団に強い奴らはいくらでもいるだろう。


 さて。

 どう対応したものか……。

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