231話 『黄昏の月』への勧誘

 謎の土魔法使いザードと、白いローブを着た女性と対峙しているところだ。


「ふむ……」


 俺は考える。

 こいつらをこのまま放置しておいていいものだろうか?

 謎の組織『黄昏の月』は、おそらくアンダーグラウンドな組織だろう。

 ミッションで指示されている『世界滅亡の危機』とやらにも関わっているかもしれない。

 この世界の今後を考えれば、放っておくわけにはいかない気がする。


 ただ、だからといって戦いを挑んで勝てるかどうかというと、微妙なところだ。

 ここはいったん引いて、情報を集めた方がいいんじゃないか?

 ……と、そのときである。


「コウタくん、危ないのです!!」


 ミナの声が響く。


「えっ!?」


 俺は慌てて後ろを振り向く。

 すると、そこにゴーレムの大群が迫ってきていた。


「ちっ!」


 まずいな。

 俺一人ならともかく、シルヴィたちがいる。

 この数を相手に切り抜けるのは無理があるぞ。


「《ロックウォール》!」


 ユヅキが岩の壁を作る。

 だが、ゴーレムの群れはそれを難なく破壊していく。

 土魔法の練度は向こうが上か。


「クソッ!」


 俺は剣を構えて駆け出す。

 シルヴィたちもそれに続いてきた。


「させると思いますか? 《ロックランス》」


「っ!?」


 ザードが魔法を発動する。

 地面から無数の石の槍が現れた。


「《ウッドランス》!!」


 ティータは木魔法でそれを相殺しようとする。

 だが、数が多い。

 全てを防げないと判断した彼女は、そのまま突っ込んでいった。


 ズババババッ!!

 彼女の斧による攻撃が石の槍を粉砕する。

 凄まじい威力だ。

 『斧士』のジョブ補正もあり、ティータは見かけよりも力が強い。

 他のメンバーも奮戦してくれている。

 だが……。


「ちっ! ゴーレムに、石の槍……キリがねえぜ!」


 リンが舌打ちをした。

 たしかに、これではこちらの攻撃が届かない。


「ふふ。一人ひとりの技量はなかなかですが、乱戦は苦手のようですね」


 ザードが言う。


「くっ……」


 俺たちは何も言い返せなかった。

 事実、この状況はあまりよくはない。


「さて、そろそろいいだろう。時は満ちた」


 白いローブの女が言った。


「おや、もうですか?」


「ああ、そうだ」


 女はうなずく。

 そして、俺の方を向いたかと思うと、


「お前がこのパーティのリーダーか?」


 そう尋ねてきた。


「だったらなんだっていうんだ」


 俺は答える。


「そうか。私はリリアナ。『黄昏の月』のナンバーズを務めている者だ」


「……」


 俺は黙り込む。


「先ほどの戦闘を見て、私は確信した。お前は弱い。だが、見どころが有る」


「……」


「私についてくるがいい。『黄昏の月』へのメンバー入りを推薦しよう。なに、悪いようにはしない。お前の身の安全は保証しよう」


「断る」


 俺は即答した。


「ほう」


 リリアナは意外そうな顔をした。


「なぜだ? 理由を説明してもらおうか」


「俺は『悠久の風』のリーダーだ。みんなを裏切ることはできない」


「……なるほど。リーダーとしての責任感はあるようだな」


「ああ。それに、お前たちみたいな胡散臭い奴らの仲間になんてなれるか」


「ふふ、そうか。ならば、仕方がないな。残念だよ」


 そう言って、リリアナは杖を構えた。

 何か仕掛けてくるつもりか?

 警戒する必要がある。

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