229話 謎の土魔法使い

 カイゼルの心を完全に折った。

 彼を街の衛兵に引き渡した後、死刑になるか鉱山奴隷になるかは分からない。

 だが、いずれにせよ俺たち『悠久の風』の害になるようなことはないだろう。

 俺がそんなことを考えつつ一息ついているとき、突然木が倒れ込んできた。


「なっ!?」


 突然の出来事に俺は驚く。


「あ、危ねえ!」


 グレイスが叫んだときには、俺は押し倒されていた。

 彼女が覆い被さってきて、俺を守ってくれる。


「大丈夫か、コウタ親分!」


「ああ。助かったよ、グレイス」


 俺は礼を言う。

 Bランク冒険者である俺は、倒木に巻き込まれたぐらいで死んだりはしない。

 とはいえ、それなりのケガはするかもしれない。

 グレイスが庇ってくれたのはありがたい。


「ご主人様! ご無事ですか!?」


「これはいったい……?」


 シルヴィとローズが駆けつけてきた。

 ユヅキ、ミナ、リン、ティータもいっしょだ。

 異変に気付いて引き返してきたのだろう。


「あ、ああ。俺は平気だ」


 俺は答える。


「……それはよかった……」


「へへっ。黒狼団やゴブリンは、コウタっちが倒してくれたみたいだな」


「さすがはコウタくんなのです」


 ティータ、リン、ミナがホッとした様子を見せる。


「でも、どうしてこんな大木が倒れたんだろう? コウタが何かしたの?」


「いや、俺は何もしていない。突然倒れたんだ。……むっ!」


 そのとき、俺はあることに気づいた。

 俺たちのいる場所から少し離れたところに人影があるのだ。

 その男は地面に手をつき、呪文を唱えていた。


「みんな、危ない! 気を付けろ!!」


 俺は叫ぶ。


「「「えっ!?」」」


 全員が戸惑ったような声を上げた。


「《クリエイト・ゴーレム 》」


 男がそう言うと、地面から土人形が現れる。

 それが俺の方へと向かってきた。


「ちっ!!」


 俺は素早く剣を抜き、土人形を切り裂く。

 ズバンッ!!

 だが、それでは終わらない。

 すぐに次の一体が地中から現れた。


「クソが!!」


 俺は悪態をつく。

 この男は何者だ?

 目的は?

 ……わからない。

 ただ、今は戦うしかない。


「《裂空脚》!」


 リンが回し蹴りを放った。

 テツザンでの鍛錬により強化された足技は、迫り来る土人形たちを粉砕していく。


「《ビッグボンバー》!」


 ミナがハンマーを振り下ろした。

 強烈な衝撃波が起こり、土人形を粉砕する。


「《アイスストーム》!」


「《ストーンキャノン》!」


 シルヴィの氷魔法とユヅキの土魔法が発動し、ゴーレムの集団を撃破していく。

 やはりみんな強い。

 頼りになるパーティメンバーだ。


 ゴーレムがやや手薄になってきたところで、俺は駆け出す。

 狙いはもちろん、術者の男だ。

 大元を殺せば、ゴーレムも止まるだろう。

 俺たち『悠久の風』にケンカを売ったことを後悔させてやるぜ。

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