170話 だが断る

 その後、俺たちは街に戻った。

 そこで待っていたのは、クラウスを始めとする部隊だった。


「おお、お前たちも無事だったようだな。おかげで私たちは安全に撤退できた。礼を言う」


 彼はそう言いながら頭を下げてきた。

 街に戻って、しっかりと傷を癒やしていたようだな。


「いや、これぐらいはお安い御用だ」


 俺もそう返す。


「うむ、しかしまさかドラゴンと戦うことになるとはな。私も昔、一度だけ戦ったことがあるが、あれは本当に恐ろしい魔物だ。討伐までに相当な被害が出た」


 クラウスは腕組みしながら言う。


「今回もきちんと準備を整えておく必要がある。申し訳ないが、リベンジ戦の際にはまた協力をお願いしたい。もちろん報酬は出す」


「ああ、任せてくれ。……と言いたいところだが」


「うん?」


「だが断る」


「……ん!?」


 一瞬、彼の目が点になった。


「ちょ、ちょっと待て! なぜだ!? なぜ協力してくれない?」


「存在しないドラゴンは倒せない」


「……何だと……? 冗談はやめてくれ」


「いや、冗談ではなく。俺たち『悠久の風』が倒したのだ。脅威となるブラックワイバーンはもう存在しない。ローズとティータも手伝ってくれた。彼女たちが証人だ」


 俺は二人の方を向いた。


「……うん。間違いないよ……」


「そ、そうですわね。まあ、わたくしは治療魔法を掛けただけですが……」


 ティータとローズがそれぞれ証言してくれる。


「そういえば、これも討伐の証拠になるか」


 俺はブラックワイバーンの魔石を取り出した。

 死体はそのままだが、魔石だけは剥ぎ取っておいたのだ。


「こ、これは……!?」


 それを見た瞬間、クラウスの顔色が変わった。


「馬鹿な……こんな大きさのものは見たことがないぞ……!」


「えっ、そんなに大きいのか?」


「ああ、そうだ。あのブラックワイバーンは強力な個体だとは思っていたが、まさかこれほどのものだったとは……」


 彼は驚きを隠せていない様子だ。

 確かに、あのブラックワイバーンは雷魔法も操っていたしなあ。

 強めの個体だったのは間違いないだろう。


「これで俺たちがブラックワイバーンを討伐したことを分かってもらえるかな」


 俺は彼に尋ねる。


「………………」


 クラウスは黙り込んでしまった。


「どうしたんだ?」


 様子がおかしいので声を掛ける。


「いや、すまない。君たちには驚かされてばかりだよ。コウタ殿は初出場で大会に優勝し、その他のメンバーも上位に食い込んだ。それだけでなく、少人数でこれほど上位の翼竜を討伐するとは」


「まあな。俺たちは強いぜ!」


 俺は得意げになって答えた。


「ふっ……。そうか。約束しよう。この度のブラックワイバーン討伐に対する報奨金として白金貨10枚を渡すことを。そして可能なら、また何らかの危機が来たら、その時もよろしく頼む」


 クラウスが頭を下げる。

 白金貨10枚か。

 かなりの大金だな。

 『悠久の風』のメンバーで分けることになるだろうが、一人あたりの配分で考えてもまだ大金だ。


「ああ。任せろ」


 俺はそう返事をする。

 子爵家であるクラウスと仲良くしておけば、いろいろと捗ることもあるだろう。

 友好的な関係を保ちたいものだ。

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