167話 なあに、すぐに追いつくさ

 ブラックワイバーンという強力な翼竜が出現した。

 クラウスや兵士たちが倒れ込んでいたが、ローズの治療魔法により一命はとりとめた。


「ふう……よかった」


 俺は胸を撫で下ろす。


「安心している場合じゃないよ?」


 ユヅキが厳しい口調で言う。


「わかってる。こいつも倒さないとならないんだろう」


 俺は剣を抜いて構えた。


「やめろ……。みんなで逃げるんだ……」


 クラウスが力を振り絞るようにしながら、必死に止めようとする。

 だが、逃げるわけにはいかない。

 先ほどまで倒れていた者たちは、まだまだ全快ではないからだ。

 だれかがブラックワイバーンの足止めをしないと、全員は逃げ切れないだろう。


「俺が時間を稼いでやる。ローズやティータたちは、クラウスを連れて先に逃げろ」


「でも……、コウタ殿たちは……」


 ローズが心配そうな顔になる。


「大丈夫。ボクたちなら、なんとかなるのです」


 ミナが力強く答える。


「へへっ。なあに、すぐに追いつくさ」


「全てご主人様にお任せください」


 リンとシルヴィがそう言う。


「……わかりましたわ。決して無理をしないでくださいまし」


 ローズは納得してくれたようだ。

 彼女がクラウスや傷付いた兵士たちを連れて撤退していく。

 しかし……。


「……ん。コウタちゃん、ティータは残る……」


「え!?」


 意外なことに、ティータが一緒に残ると言い出した。


「何を言っているんだ! こいつは危険だ!」


「……ティータだって戦える。それに……あの魔物とは因縁があるの」


「因縁……だと?」


 ティータは、コクっとうなずく。


「……わかった。だけど無茶はするなよ? 危なくなったらすぐ下がるんだ」


「……うん」


 ティータは小さく微笑む。


「よし、行くぞ!」


 俺たちはブラックワイバーンに向かっていった。

 足止めが第一目的だが、ギリギリ倒せなくもない相手だ。

 リーダーである俺がうまく指揮をして戦っていくことにしよう。

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