166話 ブラックワイバーン

 俺たち『悠久の風』はビッグベアーを無事に討伐した。

 一息ついていたとき、少し離れたところから爆発音が聞こえた。


「なんだ!?」


 音の方を見ると、森の奥地で大きな炎が立ち上がっていた。


「あれは、ドラゴンの炎!?」


「……いったいなぜこんなところに……」


 ローズとティータがそう言う。


「まさか、新手の大物!?」


「その可能性はあるのです!」


 ユヅキとミナが真剣な表情で言う。


「急ごう!」


 俺の呼びかけに全員がうなずき、現場へ急行することにした。


「これはひどい……」


 俺たちは急いで駆け寄ったが、既にそこは地獄絵図のようになっていた。

 木々が燃え盛っており、辺り一面に火の粉が舞っている。

 地面も黒く焼け焦げており、かなり広範囲に渡っているようだ。


「あっちにも倒れてる人がいる!」


 リンが指差した方角では、見覚えのある兵士たちが地面に横たわっていた。

 先遣隊の一部として、俺たちとともに森に入っていた者たちだ。


「まだ生きているようです!」


「早く助けねえと!」


 シルヴィとリンがそう言う。


「……待って。迂闊に近づくのは危険……」


 ティータが警戒するように言う。


「なぜだ? 事態は一刻を争うぞ」


「……この気配……」


 彼女はそう言いながら、斧を構える。


「おい、ティータ、いったい……」


 俺がそう言おうとした時だった。


「グルルル……」


 喉から低い声を出しながら、1匹の魔物が姿を現した。


「なっ……!」


 俺は驚いて言葉を失う。


「……ブラックワイバーン……」


 それは、翼竜と呼ばれる巨大なドラゴンの一種だった。

 全身が漆黒の鱗で覆われており、鋭い牙や爪を持つ危険なモンスターである。


「こいつが……今回の本来の討伐対象か?」


 俺はそう言葉を絞り出す。

 ビッグベアーでは、魔物たちの親玉としてはやや格が低いとは思っていたんだ。


「逃げろ……。そいつは少人数で勝てる相手じゃない……」


 倒れている者たちの中から、そんな声が聞こえた。

 ローズの父、クラウスだ。

 彼は満身創痍の状態で倒れ込んでいる。


「お、お父様! ああ……なんてこと……」


 ローズがそう言って駆け寄り、膝をつく。


「すぐに治療魔法を……」


「わ、私は大丈夫だ……。それより、倒れている者たちを治療してやってくれ。まだ息はあるはずだ……」


 クラウスは苦しそうにしながらも、そう答える。


「わかりましたわ。お父様は安全な場所まで下がっていてください」


 ローズは冷静さを取り戻したようで、父親にそう告げる。


「ヒール」


 彼女が治療魔法を発動すると、倒れた男たちに光が降り注いだ。

 ……どうやら、全員命に別状はないみたいだ。

 まずはひと安心といったところだが……。

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