134話 『英雄』と『土魔法使い』
町外れの山岳部で酒盛りをした翌朝だ。
昨晩はミナやリンとやり損ねてしまった。
さっそく朝からリベンジしようとしたところ、シルヴィに制止されてしまった。
「どうした? シルヴィ」
「今日は格闘の鍛錬に向けて、アーノルドさんやユーヤさんと待ち合わせていますよね?」
「おお。そういえばそうだったな」
すっかり忘れていた。
俺たちは酒盛りをした上、野外でハッスルしてそのまま寝た。
体調は万全とは言い難いが、まさか事情を説明するわけにもいかない。
やはり、待ち合わせ場所にはきちんと顔を出す必要があるだろう。
野外で寝て風邪を引かなかったのは不幸中の幸いか。
「待ち合わせ時間にはまだ多少の余裕はありそうだが……。一発やるには心もとないな」
「うん。とりあえず、宿に戻ろうよ。体を拭いて着替えておきたいな」
ユヅキがそう言う。
酒盛り後にハッスルしてそのまま寝たので、俺たちの体は清潔とは言い難い。
格闘の鍛錬をする前に、身支度はしっかりと整えておかないと。
……ん?
念のためステータスを確認していると、予想外のいいニュースが手に入った。
新しいジョブ『英雄』と『土魔法使い』の取得の成功だ。
どうやら、昨日の泥酔中に取得条件を満たしていたようだ。
男性の『英雄』の取得条件は、一定期間内に多数の女性とよろしくやることである。
より短期間でより多数を相手にするほど取得確率が増す。
また、相手からの好感度及び満足度、相手及び本人の取得済みジョブ数、本人の総合ジョブレベルなども関係しているという説もある。
MSCにおいてわかっていたのはそこまでで、厳密な取得条件は不明だった。
この世界では、昨晩混浴を楽しんだ際にステータス画面における『英雄』の表記が白色から灰色に変わった。
概ねの方向性は見えていたが、厳密な取得条件は手探りで進めなければならないと思っていたところだ。
酒の勢いを借りて達成でき、僥倖である。
そして『土魔法使い』の取得条件は、以前にも整理していたように、大地をその身で感じることである。
MSCにおいてその最も有効な手段は、地面の穴にモノを突っ込んで果てることだと言われていた。
土との間に干渉物があると取得確率が落ちるので、直に感じることが推奨される。
他の魔法系ジョブの取得条件と比べてもやや難易度が高い。
魔法系の上級ジョブの取得には一通りの魔法系ジョブを揃える必要があるが、『土魔法使い』は鬼門とされていた。
実際にこの世界における俺も、エルカの近郊では手頃な穴を見つけられず、取得を断念していた。
ミナとリンからの一時的なお預け状態による行き場のない熱情を、酒の勢いを借りつつ見事に地面の穴にぶつけられたわけだな。
シルヴィにドン引きされてしまったことと、ミナやリンとのお楽しみが持ち越しになったことを除けば、なかなかの結果になった。
もちろんそこまで考えていたのではなくて、単純に女性と酒を楽しんでいただけだが。
何にせよ、これで例のミッションの達成に大幅に近づいた。
ミッション
ジョブを10種取得せよ。
報酬:サードジョブ枠の開放
俺が取得済みのジョブは、風魔法使い、剣士、氷魔法使い、雷魔法使い、鍛冶師、料理人、火魔法使い、そして英雄と土魔法使いである。
合計で9種になった。
あと1種でミッションの条件を達成する。
『格闘家』の取得に向けて、鍛錬をがんばらないとな。
俺はそんなことを考えつつ、みんなと宿に向けて足を進めていった。
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