135話 武闘大会の観戦

 その後俺たちは、宿屋に戻り身支度を整えた。

 そして、アーノルド、レオン、ユーヤたちと合流する。


「よう。昨日はよく眠れ……なかったみてえだな」


「枕が変わったら寝付けないタイプか。ギャハハハハ!」


 アーノルドとレオンがそう言う。


「まあそんな感じだ」


 俺はとりあえずそう言っておく。


「コウタの兄貴! どこでも寝られるのは、冒険者として重要な技術ですぜ! 俺はぐっすりさせてもらいやした!」


 ユーヤがそう言う。

 彼がぐっすり寝ている間に、彼の妹であるユヅキは俺とともに大人の階段を上ったわけだ。

 少し気まずい……。


「さて、今日は格闘術の鍛錬を行う……前に、やっておきたいことがある」


 アーノルドがそう言う。

 彼のジョブは『格闘家』である。

 それに、ここテツザンで鍛錬した経験もあるそうだ。

 必然的に、彼がこの町での予定を取り仕切ることになる。


「やっておきたいこと?」


 俺は首を傾げる。


「ああ。みんな、俺についてこい」


 アーノルドの先導に従い、俺たちは町を進んでいく。

 町の中央付近に向かっているようだ。


「ここだ」


「ここは……」


 闘技場だ。

 いわゆるコロシアムのような形状の建物である。


「ここで、何かあるのか?」


「ああ。今日は、月に一回の腕試し大会がある。テツザンの大会の中ではレベルが低い方だが、それでもそこそこはやる連中が揃っている。参考になるはずだぜ」


 なるほど。

 腕自慢が集まって、自分の強さを確かめ合うわけだ。

 この町は武の名地だそうだし、平均レベルは高いだろう。

 観戦するだけでも学ぶことは多いと思われる。


「よし。じゃあ入るぞ。入場料は無料だから気にすんなよ」


 俺たちは闘技場の客席に入る。

 席は七割ほど埋まっている。

 それなりに人気のある催し物のようだ。


「うおおー!!」


 歓声が上がる。

 リング上には、二人の男が向かい合っていた。

 ちょうど試合が始まるところのようだ。

 一人は細身の男。

 もう一人は大柄の男だ。


 互いに素手で構えている。

 体格の差はかなりのもの。

 大柄の方がかなり有利に見えるが、果たしてどうなるのか。


「はじめ!!!」


 審判らしき人が声を上げる。

 選手二人は同時に駆け出し、間合いを詰める。

 それぞれずいぶんと好戦的だな。


 先手を打ったのは大男のほうだった。

 巨体を活かした渾身の力で殴りかかる。

 対する細身は、それを軽くいなして懐に入り込み、腹部に拳を叩き込む。


「グハッ!?」


 勢いよく吹き飛ぶ大男。

 ステージ外で倒れ込むが、すぐに起き上がった。


「ちっ! まだまだぁ!」


 そのまま再び走り出す。

 再度、お互いの身体がぶつかり合った。

 それからしばらくの間、両者は互角の戦いを繰り広げていく。

 両者ともに一歩も引かない。


 やがて、戦いの趨勢が見えてきた。

 先に息切れを起こしたのは、大柄の方だ。

 対して、細身は余裕すら感じられる表情をしている。


「そろそろ終わりにしよう」


 細身の男は、大きく振りかぶって、全力を込めて相手の頭部に回し蹴りを放つ。


「ウグッ……」


 ドサリと音を立てて倒れこむ大男。

 勝負ありだな。


「勝者、赤コーナー!」


 司会の声が響く。

 観客が沸く。


「いい試合だったね。でも、あの人、本当に強いんだろうけど……。なんというか、全然本気を出してなかったように見えちゃった」


 ユヅキがそうつぶやく。

 俺も同感だ。

 おそらく、手加減をしていたのだ。


「体格だけでは優劣がつかないということか」


 俺はそう言う。

 ユーヤがうなずき、口を開く。


「そういうことですか。俺もがんばれば、きっと……」


 何にせよ、参考になる試合だった。

 その後、俺たちは引き続き大会を見学した。

 この町の中ではややレベルが低い大会らしいが、それでもなかなかの強者ばかりだ。

 俺たち『悠久の風』の当面の目標は『格闘家』のジョブの取得だが、それを無事に達成したら、大会に出てみるのもいいかもしれないな。

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