119話 貸切風呂の予約

 テツザンの宿屋の一室に到着した。

 みんなで中に入り、室内を見回しているところだ。


「さすが、アーノルドさんがオススメする高級宿なだけありますね」


「ああ。まさかここまでとは思わなかったな……」


 シルヴィとリンがそう言う。


「エルカの町で泊まっていたところより、ちょっとグレードが高いかな?」


 ユヅキもそう言いながら、荷物を下ろした。


「お風呂も楽しみなのです」


 ミナは、もう浴室のことが気になっているようだ。


「確か、混浴なのだったか。みんなは、他の男と入るのは嫌だよな?」


「そうですね。わたしは、ご主人様以外に裸を見られたくありません!」


「僕もだなあ。というか、混浴なんて風習はエルカの町にないしね。文化の違いかな」


 シルヴィとユヅキがそう言う。

 ユヅキは冒険者として活動してきたが、基本的にはエルカの町を拠点にしていた。

 他の町の異文化についてはさほど詳しくない。


「ボクもそうなのです。でも、お風呂には入りたいのです」


「あたいも同感だ。だったらよ、貸し切りにしようぜ。値段はそれなりに高かったが、みんなで割り勘すればそれほどでもねえ」


 リンがそう提案してきた。


「まぁ、悪くない案かもね。お金は十分にあるし」


 ユヅキが賛同する。


「わたしもそれに賛成です」


「同じくなのです」


 シルヴィとミナが同意する。


「じゃ、決まりだな。少し休憩したら、予約に行こうぜ!」


 リンがそう言う。


「ああ! そうだな!」


 だれも明言はしていないのだが、ひょっとして俺もいっしょに入れるのだろうか?

 そんな淡い期待を抱きつつ、俺はリンの提案に乗ることにした。

 一服した後、俺たちは宿屋の受付に向かう。


「よう。風呂に入りたいのだが、ここは混浴だったな?」


 俺は受付の女性に話し掛ける。


「はい。魔石の消費量を抑えて安く提供するために、混浴としております」


「貸切にできるサービスがあると聞いた。料金はいかほどなのだ?」


「こちらの料金表の通りに承っております。ただし、ご利用される方が多い時間の貸切は割高、もしくは貸切不可となっています。ご了承くださいませ」


 女性が指差した先にはきちんとした料金表が書いてあった。

 深夜や日中は貸切料金がやや安い。

 早朝や晩はそこそこ。

 18時から20時まではそもそも貸切不可だ。

 そして、時間は30分区切りとなっている。


「ふむ。貸切時間は1時間ぐらいがよさそうか。みんなはどう思う?」


「いいんじゃねえか? 30分だけだと足りねえしな」


「ゆっくり入りたいのです!」


「わたしもその意見に賛同します。ご主人様の背中をじっくりとお流ししたいので」


 リン、ミナ、シルヴィがそう言う。


「じゃあ、コウタの言う通り1時間だね。時間帯は?」


「本日ですと……。今から3時間後でしたら、貸切にすることができますよ」


「ふむ。少し遅いが……。夕食をとって一服していたら、ちょうどいい時間になりそうだな。よし、それでいこう」


「かしこまりました。では、代金の方を先払い願います」


「おう」


 俺は女性に金貨を手渡す。


「確かにいただきました。浴場はこの廊下をまっすぐ行った突き当たりになります。ご利用の際には、こちらの札を入口におかけください。中から鍵を掛けることもできます。ごゆっくりどうぞ」


「わかった。ありがとう」


 俺たちは受付から離れる。

 時間になるまで、適当に時間を潰すか。

 まずは腹ごしらえをすることにしよう。

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