61話 開戦

「ええと……。ここには、薬草を置いて……。こっちには、『ホーンラビットの角』を上向きにセットして……。仕上げに、地雷草だ」


「ん? 何してんだ? コウタっち」


「俺の知識が正しければ、モンスターハウスに現れる魔物の位置や種類には、法則性があるんだ。あらかじめ、できる限りの準備をしている」


 MSCにおいては、階層に応じてモンスターハウスのパターンは決まっていた。

 同じ仕様だと祈るしかない。

 エルカ迷宮自体はMSCにはなかったダンジョンだが、2階層という点では同じだ。

 魔物の位置や種類の出現パターンが同じでもおかしくはないだろう。


「へえ。コウタっちは、いろいろと知っているんだな。あたいの勝手で迷惑をかけて、申し訳ねえぜ」


「済んだことは仕方ない。それよりも、リンにはやってほしいことがある」


「なんだ?」


「このあたりに立っていてくれ。目の前にゴブリンやフォレストゴブリンが出たら、格闘で倒してほしい」


「そんなことか。もちろん、任せてくれ!」


 リンが威勢よくそう返事をする。

 そうこうしているうちに、室内に魔力の気配が高まってきた。

 そろそろ魔物が出てきてもおかしくない。


「揺蕩う風の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。風の刃を生み出し、我が眼前の敵を切り裂け」


 俺はあらかじめ風魔法の詠唱を進めておく。

 3、2、1……。


「ぎいぃっ!」


 虚空からゴブリンが出てきた。

 今だ!


「ウインドカッター!」


「ぎゃおっ!?」


 ゴブリンの首に大きな切り傷が入る。

 やつの魔法抵抗力は高くないので、今の俺ぐらいの風魔法でも致死ダメージを与えることができる。

 やつが虚空に消える。

 まずはあっさりと討伐完了だ。


「す、すげえぜ! コウタっち!」


「まだだ! 油断するな!」


 2階層のモンスターハウスは、合計で20体以上の魔物が出ることになる。

 1体を倒したぐらいでは、まだまだ気を抜けない。


「ぎいぃっ!」


 ザシュッ!

 ザシュザシュッ!

 俺は1体ずつ出現するゴブリンを、順調に撃破していく。


 MSCにおける出現パターンと今のところは同じだ。

 出る場所や順番がわかっていれば、なんということはない相手である。

 経験値や魔石を入手できて、結構おいしい。


 だが、まだ気は抜けない。

 最序盤の小手調べはそろそろ終わりだ。


「リン! 次は、そっちにもゴブリンが現るはずだ。こっちは俺が倒すから、そっちは任せたぞ!」


「がってんだぜ!」


 『魔法をあらかじめ唱えておき魔物が出現すると同時にぶっ放す』作戦は、出現する魔物が1体だけのときにしか通じない。

 リンはまだ魔法を使えないからな。


 2体以上の魔物が同時に出現する場合は、片方をリンの格闘で倒してもらうことになる。

 まだまだ油断できない。

 気を引き締めていこう。

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