62話 ポイズンスライム

「ウインドカッター!」


「おらおらぁ!」


 俺とリンで、モンスターハウスを切り抜けようとしているところだ。

 第二波も無事に持ちこたえられそうだ。

 ゴブリンやホーンラビットの出現が一時的に停止する。


「はあ、はあ……。終わったのか?」


 リンがそう問う。

 彼女は格闘の心得があるが、ジョブは料理人だ。

 身体能力は本職の冒険者たちと比べると高くない。

 そろそろ体力が厳しそうか。


「残念だが、まだだ。次はもっと厄介な魔物が多く出現する」


「マジかよ……。そりゃ厳しいぜ……」


「心配するな。そのために、事前にあれこれ用意していたのだ。うまくいけば切り抜けられるさ」


 俺たちがそんなことを話しているうちに、時間が来たようだ。

 室内に魔力の気配が高まってくる。

 まずはーー。


「ウインドカッター!」


 今までと同じく、最初の1匹は風魔法の不意打ちで倒す。


「おらぁっ!」


 さらに、2匹目はリンの回し蹴りで仕留められた。

 ここまでは問題ない。

 だがーー。


 ぷよんぷよん。

 3匹目の魔物が姿を現す。

 ポイズンスライムだ。


 スライム系統の魔物は、単体の戦闘能力はさほど高くない。

 厄介な点として、物理攻撃が極端に効きづらいことが挙げられる。

 特に、格闘家はやつの毒で逆にダメージを負ってしまうので、天敵とさえ言える。


「お、おいおい。あれがコウタっちが言っていたポイズンスライムかよ。確かに、あたいが素手で触ったらヤバそうだな」


 ポイズンスライムは、エルカ迷宮の1階層や2階層では出現しないと聞いている。

 しかし、迷宮によっては1階層や2階層でも出てくる。

 エルカ迷宮の2階層のモンスターハウスに出現してもおかしくはない。


「慌てるな。俺の準備が炸裂するときがきた」


 魔法で攻撃すれば楽に倒せる。

 しかし、今回のように魔法使いが限られている場合は、必然的に討伐に時間がかかりがちだ。

 詠唱時間の問題があるからな。


 そして、モタモタしている間に追加のゴブリンなどが押し寄せてくれば、対処不能になる可能性がある。

 MSCにて初心者がモンスターハウスで全滅するのは、スライム系統の魔物の処理に手こずったことに起因する場合が多い。


 俺は、つい先ほど風魔法を発動したばかりだ。

 本来であれば、急いで次の詠唱を開始して倒すしかない。

 だが、今回はーー。


 ジュワッ!

 俺があらかじめセットしておいた薬草に、ポイズンスライムが触れる。

 やつの体がみるみるうちに崩れていき、虚空に消えた。

 後には魔石が残される。

 これにて討伐完了だ。


「え? 何が起こったんだ?」


「ポイズンスライムは、薬草に弱いんだよ。薬草に触れれば弱っていくし、弱めの個体であればそのまま息絶える。まあ、通常なら薬草がもったいないから魔法で倒したほうがいいけどな」


 ポイズンスライムが残すのは、小さめの魔石だ。

 薬草代のほうが高くつく。

 今回のモンスターハウスのような、特殊な事態に対処するための小技であると思ったほうがいい。


「なるほどな。すげえぜ、コウタっち!」


「この調子で、切り抜けるぞ!」


 あとの仕掛けも、うまく決まってくれるといいのだが。

 残りは、上向きにセットした『ホーンラビットの角』と、地雷草だ。


 モンスターハウスの攻略も、終わりが見えてきた。

 シルヴィ、ユヅキ、ミナも、徐々にこの部屋まで近づいてきている。

 モンスターハウスさえ切り抜ければ、彼女たちと合流することも可能だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る