35話 『土魔法使い』の設定

 『円柱状の石を頬張る』というイベントを通して、ユヅキは無事に『土魔法使い』のジョブを取得した。

 だが、やや強引にことを進めたため、彼女が怒ってしまっている。

 実際に土魔法を使えるようになっていることを確認してもらい、何とか機嫌を直してもらいたいところだ。


 俺はさっそく、ユヅキのセカンドジョブに土魔法使いを設定する。



ユヅキ

種族:茶犬族

ファーストジョブ:獣剣士レベル9

セカンドジョブ:土魔法使いレベル1

HP:E+

MP:E

闘気:E+

腕力:E+

脚力:E+++

器用:E++


アクティブスキル:

ビーストラッシュ

クリエイトブロック



「ユヅキ。機嫌を直してくれ。あれは必要なことだったんだ」


「あれが必要なこと? 訳がわかんないよ」


 ユヅキがなおもぶー垂れる。


「何か、変わったところはないか?」


「え? そういえば……。土魔法が発動できそうな気がする。何でだろう?」


 ユヅキが首をかしげる。

 シルヴィのときもそうだったが、新たなジョブをを設定した際には、本人にも知覚できる違いがあるようだ。

 まあ、俺も自分のジョブを設定したことがあるからわかる。

 確信を持って違和感があるというよりは、なんとなく違和感を覚えるという程度だ。


「さっき、長細い石を口に含んだだろう? 大地の一部である石を味わうことにより、土魔法への理解が深まったのだ」


 一応、MSCにおいても建前はそうなっていた。

 全裸で風を感じることで得る『風魔法使い』や、愛する者を冷たい言葉で罵ることで得る『氷魔法使い』と同じく、ややムリヤリな理屈ではあるが。


「そ、そっか……。平手打ちしちゃってごめんね。勘違いしてた」


 ユヅキが頭を下げる。


「いや、気にするな。ちゃんと説明せず、強引に進めたこちらにも非はある。それよりも、さっそく土魔法を使ってみてくれ」


「わ、わかった。やってみるね」


 ユヅキが魔力を高めていく。


「母なる土の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。土の塊を生み出し、我が眼前に落とせ。クリエイト・ブロック!」


 ドゴン!

 そこそこのサイズの土の塊が、上空から振ってきた。

 大きさは直径10センチ程度か。


 氷魔法の『アイスショット』は、氷の弾を撃ち出す魔法である。

 土魔法の『クリエイト・ブロック』は、土の塊を生成する魔法である。


 攻撃の柔軟性という点では、アイスショットのほうが上だ。

 好きな方向に飛ばせるからな。


 しかし、威力はクリエイト・ブロックのほうが上である。

 質量が大きいためだ。


「ふむ。いい感じだな」


「ほ、本当に使えた。僕が土魔法を使えるなんて」


 ユヅキが嬉しそうにそう言う。

 各種ジョブの取得方法が広まっていないこの世界においては、魔法を使える者はややめずらしい。

 白狼族なら氷魔法、茶犬族なら土魔法に適正があるが、それでもその属性の魔法を使える者はそれほど多くない。

 使える者は、ちょっとした有名人となり有望株扱いされる。

 これで、ユヅキも期待のルーキーに仲間入りといったところだ。


「アーノルドさんたちが言っていたことは事実だったんだね。たまには違うパーティで狩りをすることも、いい経験になるって」


「そうだな。俺やシルヴィも、ユヅキの存在はいい刺激になっているぞ」


 獣剣士や土魔法使いのジョブは、MSCにおいて見慣れている。

 しかし、この世界における実際の戦闘能力などはもちろん知らない。

 今のところは各種の仕様に大きな差異はない。

 だが、できるだけ確認しておいて損はない。


「ありがとう。それで、できればこの修練方法をユーヤたちに教えてあげたいのだけど……」


 ユヅキがそう言う。

 彼女からすれば、そりゃそうなるよな。


「いや、それはどうだろう。あの修練方法を、ユーヤたちが信じて実行してくれるのであればいいが……」


 細長い石を頬張り、前後させて味わう。

 傍目には、奇行にしか映らない。


「そ、それは確かに……。うーん。機を見て、言ってみることにするよ。コウタはそれでも構わないの?」


「そうだな。あまり広めすぎるのもよくない。俺たちの優位性が失われるからな。とはいえ、ユヅキの兄であるユーヤや、他の3人ぐらいであれば大きな問題はないだろう」


 俺TUEEEするためにも、無闇に広めるのは避けたい。

 だが、俺には『30年後の世界滅亡を回避せよ』というミッションもある。

 先のことだから現状ではあまり気にしていないが、少しは意識しておいたほうがいい。


 各種ジョブの裏技じみた取得方法を広めれば、この世界の平均的な戦闘能力は少しずつ上がっていくことだろう。

 そうなれば、30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう際にもマイナスにはならないはずだ。

 具体的に、どのような危機があるのかにもよるが。


「わ、わかった。じゃあそうするね。それはそうとして、僕自身はしばらくコウタたちとパーティを組んでいようかな。コウタはどう思う?」


「俺は構わないぞ。たった2か月では、寂しいと思っていたんだ。なあ? シルヴィ」


「そうですね! ユヅキさんと2人でならば、ご主人様をお支えしていけると思います! ともにがんばりましょう!」


 そんな感じで、ユヅキの『土魔法使い』としての初動は無事にスタートした。

 さらに、彼女が俺たちのパーティにしばらく加入する方向性にもなった。


 3人以上となると、そろそろパーティ名を設定しておいたほうがいいかもしれない。

 近いうちに、冒険者ギルドに行くことにしよう。

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