34話 『土魔法使い』の取得

 ユヅキが無事にシステム上のパーティに加入した。

 さっそくレベリングといきたいところだが、その前にやっておきたいことがある。


「コウタ。さっきのは何だったの? 『コウタのパーティに勧誘されています。受諾しますか?』っていうやつ」


「今は気にしないでくれ。それよりも、やってほしいことがある」


 パーティについて詳しく説明するのは後でいいだろう。


「やってほしいこと?」


「ああ。……おっ、この石がいい。これを洗って、と」


 俺は細長い石を拾う。

 円柱形の石だ。

 直径5センチ、長さ20センチくらいである。


 俺はそれを、持ち歩いていた飲料水で洗う。

 ユヅキとシルヴィはそれを不思議そうな顔で見ている。


「ユヅキ。ちょっとこれをしゃぶってみてくれないか?」


「え、ええと。それにいったい何の意味が……? いやだよ、そんなの」


「ちゃんと洗ったからきれいだぞ」


「そうじゃなくて、やる意味がわかんないよ……」


 ユヅキがそう訝しげにそう言う。


 くそっ。

 こうなるか。


 シルヴィに俺への言葉責めを依頼した際には、少し戸惑いつつもやってくれた。

 彼女は俺のことを盲信してくれているところがあるからな。

 立場的にも、一応は奴隷だし。


 しかし、ユヅキと俺の関係は対等だ。

 彼女の兄ユーヤに対して俺は貸しがあるが、彼女本人に対して貸しはない。

 年齢は彼女より俺のほうが少し上だが、冒険者に年齢はあまり関係ない。

 冒険者ランクは同じDだし、経験自体は彼女のほうが上だ。


「仕方がない。シルヴィ、少し手本を見せてやってくれ」


 俺はシルヴィにそう振る。

 一度手本を見ることによって、謎の行為に対する心理的なハードルは下がるだろう。

 それに、シルヴィがこれをやることにも一応意味はある。

 彼女が『土魔法使い』のジョブを取得できれば、将来的にサードジョブ以降が開放されたときの候補になる。


「わかりました! こうですか?」


 シルヴィは小さな口をめいいっぱい広げ、円柱形の石を頬張る。

 なんだか少しいけないことをしている気分になる。


「悪くない。だが、もっと奥までくわえるんだ」


「んん! んーっ!」


 シルヴィは俺の指示に素直に従う。

 そして、しばらくして。

 シルヴィが無事に『土魔法使い』のジョブを取得した。

 やはり、MSCの裏技じみたジョブの取得方法は、この世界でも通用しそうである。


「よし。もういいぞ、シルヴィ。ありがとう」


「ぷはっ! いえ、どういたしまして。なんだか、新たな道が拓けたような気がします」


 シルヴィが爽やかな顔でそう言う。

 新たな道とは、どういう道なのか。


 冒険者としての新たな道か?

 しかし、彼女は『土魔法使い』のジョブを取得しただけであり、ファーストジョブやセカンドジョブに設定はしていない。

 ステータスやスキル上の恩恵は受けていないはずだが……。


 冒険者として以外の新たな道なのかもしれない。

 ここを深く考えるのはよそう……。


 俺は、また新たな手頃な石を探す。

 シルヴィにくわえてもらったものと同じサイズ感の石を見つけた。

 飲料水で洗っておく。


「さあ、次はユヅキの番だ。おとなしくこれをくわえろ!」


「え、ええー……。まだちょっと嫌なんだけど……」


 ユヅキがなおも難色を示す。

 少しだけ心理的なハードルは下がったが、まだ踏ん切りがつかないようだ。

 別に、ただ石をくわえるだけなんだけどな。


「ゴチャゴチャうるせえ! いいからくわえればいいんだよ! シルヴィ、ユヅキを取り押さえろ!」


 ここは強行作戦だ。

 ムリヤリにでもやらせてジョブを取得できれば、それでいい。

 ユヅキもいつか理解してくれるだろう。


「わかりました!」


「ちょっ……」


 ユヅキの抵抗も虚しく、シルヴィに取り押さえられる。

 シルヴィのほうが少しだけ身体能力が高い。

 その上、俺も取り押さえるのに協力しているからな。

 ユヅキになすすべはない。


「さあ、これをくわえるんだ! 歯は立てるなよ」


 石に歯を立てると、歯を悪くするかもしれないからな。

 俺は安全に配慮しつつ、ユヅキの口に円柱状の石を突っ込む。


「むぐーっ!」


 ユヅキがそう悲鳴を上げる。


 ……ん?

 これはユヅキのためでもあるんだが、何だかいけないことをしている気分になってきたな。


 年頃の少女を複数人で押さえつけ、口に細長い棒を突っ込む。

 完全にアウトじゃねえか。

 このシーンをユーヤやアーノルドに見られたらマズイかもしれない。


「ちっ。さっさと終わらせるぞ!」


 俺は円柱状の石を前後させる。

 MSCの経験上、こうしたほうがジョブの取得確率が上がるのだ。


「むーっ!」


 ユヅキがそう悲鳴を上げる。

 もう少しだからガマンしてくれ。


 そして、しばらくして。

 彼女は無事に『土魔法使い』のジョブを取得した。

 順調だ。

 何も問題はない。


 ……と言いたいところだが。


「もうっ! 信じらんない!」


 バシーン!

 俺はユヅキから強烈な平手打ちをもらってしまった。


 さらに、その後1時間ぐらいユヅキはほとんど口をきいてくれなかった。

 即座に町に帰ってユーヤやアーノルドに報告されなかっただけ、まだマシだと言えるが。


 ジョブのことを説明して、何とか許してもらうことはできた。

 さっそく、ユヅキに『土魔法使い』のジョブを設定することにしよう。


 彼女から俺に対する好感度が大きく下がってしまった気がするが、実際に土魔法を使えることを確認すれば、また評価も回復するはず。

 何とか挽回したいところだ。

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