36話 パーティ結成 悠久の風
ユヅキの『土魔法使い』としての初動は無事にスタートを切れた。
その翌朝。
冒険者ギルドにやってきた。
「おはよう。セリアちゃん」
「おはようございますにゃ。コウタさん、シルヴィちゃん、ユヅキちゃん」
受付嬢のセリアがそう言う。
彼女が言葉を続ける。
「本日はどうされましたかにゃ?」
「パーティ名の登録をしに来た。俺、シルヴィ、ユヅキの3人でしばらくパーティを組むことにしたんだ」
俺はそう言う。
別に無登録のままでも、大きな問題はない。
しかし、今後を見据えるならパーティ名を登録しておいたほうがいい。
このパーティで少しでも実績を積んで名を上げれば、隊商の護衛依頼などの受注の際に条件がよくなることがあるのだ。
「それはいいことですにゃ。ギルドとしても、コウタさんたちには期待していますにゃ。でも、ユヅキちゃんはそれでいいのですにゃ? 『大地の轟き』は解散かにゃ?」
「う、ううん。『大地の轟き』が解散するわけじゃないよ。あくまで、僕が一時的に抜けるような形だね。ユーヤたちにも相談済みだよ」
ユヅキが抜けることで、『大地の轟き』は4人パーティとなる。
もともと、エルカ草原で狩りをするには少し多いぐらいの人数だったし、大きな問題はないだろう。
あちらはあちらで、しばらくはアーノルドやレオンと行動をともにする予定だしな。
「そうでしたかにゃ。では、こちらのパーティ名登録用紙に記入してくださいにゃ」
セリアがそう言って、登録用紙を差し出してくる。
俺は内容を確認する。
「パーティ名、リーダー、サブリーダー、そしてメンバーか」
「リーダーはご主人様ですよね。サブリーダーは……冒険者歴の長いユヅキさんが妥当でしょうか?」
シルヴィがそう言う。
「いや。サブリーダーはシルヴィがいいと思うよ。僕はしばらくはこのパーティで活動するけど、ずっとかどうかはさすがにわからないし」
「わかった。では、俺がリーダー、シルヴィがサブリーダーにしよう」
俺は登録用紙にそう書き込む。
「次に、パーティ名だが……」
パーティ名は大切だ。
今後の冒険者活動をする上で、長く使っていくことになる。
同業の冒険者から一目置かれ、依頼主となり得る商会主や行商、それに民間人などから信頼感を抱いてもらえるような名前にするべきだろう。
「何かいい案はあるか?」
「そうですね……。『偉大なるご主人様とゆかいな仲間たち』でどうでしょうか?」
シルヴィがそう提案する。
提案してくれるのはいいのだが、そこはかとなくセンスがない。
せめて、『ご主人様』じゃなくて『コウタ』のほうがマシだろう。
ご主人様だと、他の人からは誰のことかわからないし。
まあ、コウタに変えたところでイマイチなのはあまり変わらないが。
「うーん。保留で……。ユヅキはどうだ?」
「そ、そうだねえ。『大地の雄叫び』はどうだろう?」
直感的な響きは悪くないが……。
「『大地の轟き』に引っ張られてないか? うちで土魔法を使えるのは、ユヅキだけだぞ」
「それもそうかあ」
ユヅキが残念そうな顔をする。
「それならば、『悠久の風』はいかがでしょうか? 風魔法を使えるのはご主人様だけですが、リーダーですし違和感はないと思います!」
「いい名前だね」
シルヴィの提案に、ユヅキがそう言う。
「俺の風魔法を前面に押し出すわけか。それはそれでちょっと恥ずかしいな……」
「では、『偉大なるご主人様とゆかいな仲間たち』で……」
「よし! 俺たちは今から、『悠久の風』だ! 今後も気を引き締めて活動していくぞ!」
俺はそう宣言する。
あまり迷っていると、シルヴィの案であるとんでもパーティ名になる可能性がある。
ここは切り上げてしまおう。
「『悠久の風』ですかにゃ。いい名前と思いますにゃ。それで登録をしておきますにゃ。冒険者カードをお預かりしますにゃ」
「よろしく頼む」
俺たちはセリアに冒険者カードを渡す。
セリアがパーティ登録の処理を進めていく。
その一方で、俺はステータス画面を確認する。
パーティ名:悠久の風
リーダー:コウタ
サブリーダー:シルヴィ
メンバー:ユヅキ
システム上のパーティ名もきちんと登録されたことになる。
まあ、パーティ名は識別のために付けるものであって、システム上の恩恵が何かあるわけでもないのだが。
……ん?
ステータス画面に『NEW』の文字がある。
これは……。
新しいミッションが追加されたようだ。
ミッション
『悠久の風』にてダンジョンの階層ボスを撃破せよ。
報酬:オリハルコン(中)、経験値(小)
ミッション
『悠久の風』のパーティ人数を5人にせよ。
報酬:魔石蓄積ブースト、経験値(小)
ダンジョン攻略と、パーティメンバーの追加か。
どちらも容易ではないが、達成困難というほどでもない。
ちょうどいいぐらいの難易度のミッションを用意しやがるな。
今さらだが、このミッションとやらを用意しているのはだれなんだろう?
MSCでは、もちろん運営の人間が設定していたはず。
MSC風のこの世界ではどうか。
ひょっとすると、神のような超常の存在が設定しているのかもしれない。
MSCにおいても、超常の存在はいくつか設定されていた。
神を始め、龍、精霊などである。
いつかは、そういった超常の存在と関わることもあるかもしれない。
「お待たせしましたにゃ。『悠久の風』で登録しましたにゃ。お三方のギルドカードにも、パーティ名を記載しておりますにゃ」
冒険者ギルドの受付嬢である、海猫族のセリアがそう言う。
青色の髪と猫耳が特徴的な女性だ。
彼女が冒険者カードを俺たちに返却する。
確かに、冒険者カードに『悠久の風』の表記が追加されている。
「よし。これからもよろしくな。シルヴィにユヅキ」
「はい! ご主人様のお役に少しでも立てるよう、粉骨砕身の覚悟で臨みます!」
白狼族の奴隷であるシルヴィがそう言う。
銀色の髪と狼耳が特徴的なかわいい少女だ。
「僕もがんばるよ! 別行動のユーヤたちに負けないようにね!」
茶犬族の僕っ娘ユヅキがそう言う。
茶色の髪と犬耳が特徴的なボーイッシュな少女である。
彼女たちといっしょなら、今後の冒険者活動も楽しくなりそうだ。
この世界における俺の目的を再整理しておこう。
大きく2つある。
1つは、ミッションで言及されている30年後の世界滅亡を回避すること。
しかし、まだまだ先のことなので実感は湧かない。
そもそも、具体的にどんな危機が訪れるのかもわからないしな。
当面は、他のミッションをこなしていく感じになるだろう。
もう1つは、ハーレムを築くこと。
俺だけが持つシステムスキル『ジョブ設定』や『経験値ブースト』があれば、俺はどんどん強くなれる。
力と収入があれば、多くの女性たちを惹き付けることも可能なはず。
それに、女性側にもメリットはある。
俺のシステムスキル『パーティメンバー設定』と『パーティメンバー経験値ブースト』により、彼女たち自身もどんどん強くなれるのだ。
俺はまだ、シルヴィとユヅキに手を出していない。
シルヴィに手を出すのは、彼女の購入代金の分割払いを終えてからになるだろう。
ユヅキとは、単純にまだそういう段階ではない。
そこそこ仲は深まっており、手応えは感じているが……。
この町には、魅力的な女性がたくさん存在する。
『料亭ハーゼ』の店員である金兎族の少女リン。
鍛冶師であるドワーフの少女ミナ。
領主の娘であるローズという少女や来賓のティータというエルフの少女も、なかなかの美人だという噂を聞いたことがある。
「んん。将来的に、パーティメンバーは10人はほしいな。……ハーレム王に、俺はなる!!!」
ドン!
俺は力強く宣言する。
「お手伝い致します!」
「ハ、ハーレム? 加入するパーティを間違えたかな……」
シルヴィとユヅキがそう言う。
最後に言葉選びを間違えた気もするが、気にしないでおこう。
俺たちの冒険はまだまだ始まったばかりだ!
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